クラウドソーシング「ランサーズ」 なんでも評点:翻訳人力時代の終わり

2022年10月06日

翻訳人力時代の終わり


私が長年生計を立ててきた産業翻訳業。3年前に脳出血で入院し、いちおう生死の境を彷徨ったりした後、半年も関西の軽井沢的な高原にあるリハビリ病院でリハビリした後、出てきてから翻訳業界の何かが変わっていた。最初は自分の脳が変になっただけだと思ったが、娑婆に出てきて3年も経つと、おかしくなったのは俺の脳じゃなくて、「翻訳業界の脳」だとわかった。たぶん5年ぐらい前から「翻訳業界の脳」は人脳から電脳に入れ替えられていた。

私の脳出血は、左脳で起きた。左脳は普通、言語や論理思考を司る。だから、医師らは私の職業を聞いて、「お気の毒ですが再起不能です」と家族に伝えたらしい。しかし、私は、幼少期に左利きを矯正した。左利きでは、右脳が言語脳の場合がある。しかし、左脳が損傷したため、右手や右足が不自由になった。右手はリハビリである程度直ったが、いまだに文字を書きにくいし、PCのキーボードを打つのも遅くなった。


21世紀の到来以来、世間のコンプライアンスが強化され、1翻訳者が企業と直接やり取りをすることはできなくなった。私も直接取引の顧客をすべて失い、翻訳会社に頼るようになった。手数料を抜かれるので、翻訳者の実入りは減るが、営業に要する時間的/金銭的コストをカットでき、ソースクライアントの不払いという最大の金銭リスクについても、直接的な被害は免れる。翻訳者にとって翻訳会社は、間を抜かれても、そんなに損をする相手ではなかった。

そんなわけで、200x年代から2015年前後は、翻訳会社なしでは生きられぬほど依存していた。私が特に懇意にしていた翻訳会社は、自動翻訳=「ルールベース型の機械翻訳」という認識に染まっていて、ネットワークにつながれたAI翻訳(ニューラル自動翻訳)をあまり意識していなかった。翻訳会社が多用するようになっていたTradosなどの翻訳支援ツールがルールベース型の機械翻訳と統合されていることが多く、翻訳ツールのベンダーからも、ルールベース型の機械翻訳に関する更新情報を絶えず配信してた(いまだに私のところにも送ってくる)。

【参考記事】

TOINサイトより:AI翻訳(機械翻訳)

TOIN創業者の勝田美保子さんとは、90年代、何度か食事をご一緒した。昨年、93歳でこの世を去っておられた。TOINとは2000年代の短期間しか仕事上の付き合いがなかったが(大きな納期遅れをやらかしてしまい、お付き合いを自粛した)、勝田さんには可愛がってもらった。彼女の死は、一時代の終わりだった。


だから、私が懇意にしていた翻訳会社経由でAI翻訳の噂を聞くことは皆無だった。私が入院しているうちにAI翻訳という電脳が産業翻訳を支配していたのだ。人間の脳は主役の座から引きずり降ろされていた。

難解なトライアルに合格した者だけを自社の外注先として認定する翻訳会社の厳格なシステムがあったからこそ産業翻訳の品質は守られてきた。しかし、もう人脳の品質など守る必要がなくなった。これも、しっかりした翻訳会社に守られた私が入院を挟んで数年気づかぬうちに、トライアルによる人脳の選別など必要としない「フリーランス雇用システム」がこの業界の主流になっていた。

産業翻訳界で‟孤児”となった私も今年になってからフリーランスマッチングサイトで、職を得る試みを繰り返しているが、報酬については、まさに雲泥の差だとあきらめねばならない。翻訳者の求人でも、今年の春ごろまでは、「AI翻訳禁止」の断り文句がときどき見られたが、今では「AI翻訳の結果をそのまま使うのは禁止」に様変わりしている。現実問題、AI翻訳を使わない限り、指定の単価と納期で完了できない仕事ばかりだ。

応募者を見て翻訳者としての経験や実力から雇用するかどうかを判断しない人がフリーランスマッチングサイトで翻訳者を探している例が多い(翻訳者としては、例外に巡り合えたら運が良い)。昔から、翻訳会社を退職した人が個人で文字通りのエージェントとして翻訳者をハントしていることがあった。あれと同じように、個人で活動している個人事業主なのか、発注会社の社員なのか、よくわからないことが多い。一つ言えるのは、応募者の翻訳能力を判断できない人が少なくないという事実。ゆえに、翻訳者の品質を担保できないことがままある。

でも、人脳じゃなく、電脳が大事なのだから関係ないってことか?

不思議なことに、人間が翻訳をしていた時代は、英日翻訳者の人口が日英翻訳者のそれを1桁ぐらい上回っていたのに、いまや日英翻訳者の方が増えている。私は長年、英日翻訳でも評価されながら、日英翻訳で顧客を勝ち取ってきた。日英翻訳で評価される仕組みがいつもよくわからないと思ってきた。まず、誰の評価なのか? 製品マニュアルのマニュアルなら、最終使用者(エンドユーザー)に評価されるのが一番だろう。しかし、英訳の場合、最終使用者の意見が聞こえにくいのだ。

こうしてAI翻訳に依存した日英翻訳は、厳正なチェックにさらされることもなく、日本から海外へと流通している。誤訳から問題が起きても、最初は伝えられにくく、大問題に発展して初めてシビアなフィードバックがあるだろう。

【誤訳で80億円の損害!?】誤訳の事例3つと誤訳が起こる原因&解決策

統一翻訳なる翻訳会社による記事だ。例の「統一ほにゃらら」と関係あるのか、私は知らない。誰か教えてください。


今さら(AI翻訳時代が到来してからでは)遅いのだが、輸出で収益を上げている日本企業は、誤訳のリスクを認識して、従来より多額の翻訳予算を計上すべきだ。AIによる日英翻訳の誤訳としては、人称代名詞や有性名詞の誤用や、単数・複数の誤用が多い。




この記事の先頭に戻る

Google
WWW を検索 評点




この記事へのコメント

1. Posted by     2022年10月16日 18:25
だめだこりゃ😂

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔   
 
 
 
◎-->