2009年07月30日
先日の「今犯人を片手で取り押さえながら、もう一方の手で電話してるところです」の記事のコメント欄が当ブログにしては珍しく盛況である。空き巣の被害にあった男性の家からテレビが6台も盗み出されたという点に関して、ある人が「ウチ普通に5台ありますけど」とコメントしたところ“激論”(?)に火が付いた。
以前の私は自分のブログのコメント欄が掲示板化するのをあまり好ましく思っていなかったが、今ではそんなこだわりもなくなっている。一連のやり取りをほくそ笑みながら眺めさせていただいた。
1軒の家の中にあるテレビの台数の多さは部屋数の多さを意味してもいて、豊かさのバロメータととらえることもできる。オーストラリア全土を対象として、経済的な豊かさと幸福感の相関を長期的に調査した研究結果のことを以前取り上げたことがある。この研究を率いた教授は、いみじくもこうコメントしている。
「田舎では、住居費をはじめとする生計費が安くて済む傾向があります。このため、地方で暮らしている人たちの方が、収入のうち、自分の自由になる割合が高いといえるでしょう」
★ ★ ★
さて、米国には、連邦政府や州の交付金、寄付金、スポンサー料などで運営されている“ナショナル・パブリック・ラジオ”(NPR)というラジオ局がある。NPRでは、資金提供者の名が短いCMのようなかたちで流される。そして、数週間前から、次のような“資金提供者CM”が流されるようになった。
「NPRは、リチャード・リーロイ・ウォルターズ氏から支援を受けています。ウォルターズ氏は日々の生活の中でNPRを楽しんでおられました。公共ラジオをさらに多くの人たちにお届けする上で今、彼の遺産が活かされようとしています」
“遺産”とあるように、ウォルターズ氏はもうこの世を去っている。アリゾナ州フェニックスで2年前、76歳の生涯を終えた。彼は400万ドル(約4億円)相当の不動産を残した。彼の遺産の一部はNPRに寄付されたほか、地元のカトリック団体にも寄付された。
しかし、ウォルターズ氏は最後まで無神論者だった。彼はインディアナ州のパデュー大学を主席で卒業し、海兵隊に志願した後、エンジニアとしてAlliedSignal Corp.で働いた。同社を定年になった後、ウォルターズ氏は“物質的安楽の世界”からも身を引くことにした。
4億円相当の財を残せるほどの経済力を持ちながら、彼は住まいを捨て自らホームレスとして生きる道を選んだのだった。
生涯独身を通したウォルターズ氏に子供はいなかった。兄弟とも疎遠で孤独な生活を送っていたかに見えるが、友人がいないわけではなかった。ウォルターズ氏には、リタ・ベルという名の親友がいた。
正看護師をしているリタさんがウォルターズ氏と知り合ったのは、今から13年前のこと。熱心なカトリック信者でもあるリタさんは高齢者センターで、ウォルターズ氏と顔なじみになった。
「彼はいつも小さなバックパックを背負い、帽子を被って現れました。いつも、私の方をちらりと見たりするのですが、とても控えめな感じでした。一方、この私は社交的で物怖じしない性格です。ある日、声をかけてみたんですよ。一緒にコーヒーでもいかが、って」
それ以来、リタさんとウォルターズ氏は仲良しになった。最初のうち、リタさんはこの物知りで知的な老紳士がホームレスだと知らなかった。エアコンが故障すると、その場でさっさと修理してしまうほどで、当然、普通の生活を送っていると思っていた。
だが、仲良くなってしばらくすると、ウォルターズ氏は自分がホームレスであることを明かす。いつも高齢者センターの敷地内で眠っている、と。食事は病院で摂ることにしているし、電話も病院か高齢者センターのものを使わせてもらっている、と。
ホームレスの彼がどこに電話をかけるかと言えば、証券会社である。ウォルターズ氏はホームレスになった後も株式投資だけは続けていた。リタさんも投資に興味があったので、二人の間ではいつも投資の話が盛り上がった。
ウォルターズ氏の具合が悪くなったときは、リタさんが看病することもあった。結局、リタさんは(ホームレスである)ウォルターズ氏の専属ナースになり、彼の不動産の遺言執行人にもなったのである。
リタさんは述懐する。「彼は、みんなが持っていて当然と考える物質的なものを何もかも捨て去ってしまったのです。幸せの尺度って何でしょう? あなたにとって幸せなことでも、私にとっては幸せじゃないかもしれません。ともかく、私は彼が不平不満を言っているのを一度も聞いたことがありませんでした。
「彼は無神論者でした。私は活発に活動しているカトリック信者です。無神論者と会って話そうなんて思ったこともありませんでした。神を信じることができない人がいるなんてこと自体、私には考えられないことでした」
“物質的安楽の世界”から身を引いた後も投資を続けたウォルターズ氏だが、テレビを情報源として使用することはなかったようだ。彼の数少ない持ち物の中にかろうじて1台のラジオが含まれていた。彼はそのラジオを通じて、NPRの放送を聞くことを日課にしていたのだ。だから、彼が残した遺産の一部、正確には40万ドルがNPRに寄付されることになった。
リタさんが所属しているカトリック布教本部にも、同じく40万ドルが寄付された。その他のいくつかの非営利団体にも遺産の一部が寄付されている。
4億円相当ものウォルターズ氏の資産がどのように築かれたものかは不明である。ホームレスになった後の投資で儲けた可能性もあるが、ホームレスになった時点ですでにそれだけの資産を持っていた可能性もある。
後者であったとすれば、彼にとって物質的な富は幸福を保証するものではなかった、ということになるだろう。
■ Source: Homeless Man Leaves Behind Surprise: $4 Million : NPR
(知的な容貌のウォルターズ氏の肖像写真あり)
【関連記事】
1軒の家の中にあるテレビの台数の多さは部屋数の多さを意味してもいて、豊かさのバロメータととらえることもできる。オーストラリア全土を対象として、経済的な豊かさと幸福感の相関を長期的に調査した研究結果のことを以前取り上げたことがある。この研究を率いた教授は、いみじくもこうコメントしている。
「田舎では、住居費をはじめとする生計費が安くて済む傾向があります。このため、地方で暮らしている人たちの方が、収入のうち、自分の自由になる割合が高いといえるでしょう」
さて、米国には、連邦政府や州の交付金、寄付金、スポンサー料などで運営されている“ナショナル・パブリック・ラジオ”(NPR)というラジオ局がある。NPRでは、資金提供者の名が短いCMのようなかたちで流される。そして、数週間前から、次のような“資金提供者CM”が流されるようになった。
「NPRは、リチャード・リーロイ・ウォルターズ氏から支援を受けています。ウォルターズ氏は日々の生活の中でNPRを楽しんでおられました。公共ラジオをさらに多くの人たちにお届けする上で今、彼の遺産が活かされようとしています」
“遺産”とあるように、ウォルターズ氏はもうこの世を去っている。アリゾナ州フェニックスで2年前、76歳の生涯を終えた。彼は400万ドル(約4億円)相当の不動産を残した。彼の遺産の一部はNPRに寄付されたほか、地元のカトリック団体にも寄付された。
しかし、ウォルターズ氏は最後まで無神論者だった。彼はインディアナ州のパデュー大学を主席で卒業し、海兵隊に志願した後、エンジニアとしてAlliedSignal Corp.で働いた。同社を定年になった後、ウォルターズ氏は“物質的安楽の世界”からも身を引くことにした。
4億円相当の財を残せるほどの経済力を持ちながら、彼は住まいを捨て自らホームレスとして生きる道を選んだのだった。
生涯独身を通したウォルターズ氏に子供はいなかった。兄弟とも疎遠で孤独な生活を送っていたかに見えるが、友人がいないわけではなかった。ウォルターズ氏には、リタ・ベルという名の親友がいた。
正看護師をしているリタさんがウォルターズ氏と知り合ったのは、今から13年前のこと。熱心なカトリック信者でもあるリタさんは高齢者センターで、ウォルターズ氏と顔なじみになった。
「彼はいつも小さなバックパックを背負い、帽子を被って現れました。いつも、私の方をちらりと見たりするのですが、とても控えめな感じでした。一方、この私は社交的で物怖じしない性格です。ある日、声をかけてみたんですよ。一緒にコーヒーでもいかが、って」
それ以来、リタさんとウォルターズ氏は仲良しになった。最初のうち、リタさんはこの物知りで知的な老紳士がホームレスだと知らなかった。エアコンが故障すると、その場でさっさと修理してしまうほどで、当然、普通の生活を送っていると思っていた。
だが、仲良くなってしばらくすると、ウォルターズ氏は自分がホームレスであることを明かす。いつも高齢者センターの敷地内で眠っている、と。食事は病院で摂ることにしているし、電話も病院か高齢者センターのものを使わせてもらっている、と。
ホームレスの彼がどこに電話をかけるかと言えば、証券会社である。ウォルターズ氏はホームレスになった後も株式投資だけは続けていた。リタさんも投資に興味があったので、二人の間ではいつも投資の話が盛り上がった。
ウォルターズ氏の具合が悪くなったときは、リタさんが看病することもあった。結局、リタさんは(ホームレスである)ウォルターズ氏の専属ナースになり、彼の不動産の遺言執行人にもなったのである。
リタさんは述懐する。「彼は、みんなが持っていて当然と考える物質的なものを何もかも捨て去ってしまったのです。幸せの尺度って何でしょう? あなたにとって幸せなことでも、私にとっては幸せじゃないかもしれません。ともかく、私は彼が不平不満を言っているのを一度も聞いたことがありませんでした。
「彼は無神論者でした。私は活発に活動しているカトリック信者です。無神論者と会って話そうなんて思ったこともありませんでした。神を信じることができない人がいるなんてこと自体、私には考えられないことでした」
“物質的安楽の世界”から身を引いた後も投資を続けたウォルターズ氏だが、テレビを情報源として使用することはなかったようだ。彼の数少ない持ち物の中にかろうじて1台のラジオが含まれていた。彼はそのラジオを通じて、NPRの放送を聞くことを日課にしていたのだ。だから、彼が残した遺産の一部、正確には40万ドルがNPRに寄付されることになった。
リタさんが所属しているカトリック布教本部にも、同じく40万ドルが寄付された。その他のいくつかの非営利団体にも遺産の一部が寄付されている。
4億円相当ものウォルターズ氏の資産がどのように築かれたものかは不明である。ホームレスになった後の投資で儲けた可能性もあるが、ホームレスになった時点ですでにそれだけの資産を持っていた可能性もある。
後者であったとすれば、彼にとって物質的な富は幸福を保証するものではなかった、ということになるだろう。
■ Source: Homeless Man Leaves Behind Surprise: $4 Million : NPR
(知的な容貌のウォルターズ氏の肖像写真あり)
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この記事へのコメント
1. Posted by ´・ω・' 2009年07月30日 21:33
映画化決定
2. Posted by 2009年07月30日 22:04
現代のディオゲネス
3. Posted by 2009年07月30日 22:09
何らかの精神病に罹ってた…とも言い切れないところがすごいですね。
まぁそれでも家や社会に属すことにおける一種の脅迫症に罹ってたんじゃないかと思うけど、
享受し遊離することで、
理性や信念を持ち続けて己を律し心豊かでいることが出来たんでしょうね。
ま、推測ですが、いずれにせよ感服します。
まぁそれでも家や社会に属すことにおける一種の脅迫症に罹ってたんじゃないかと思うけど、
享受し遊離することで、
理性や信念を持ち続けて己を律し心豊かでいることが出来たんでしょうね。
ま、推測ですが、いずれにせよ感服します。
4. Posted by 2009年07月30日 23:04
俺は偉いとは思わない、そうは思えない
5. Posted by 2009年07月30日 23:41
哲人
6. Posted by 2009年07月31日 01:23
犬儒学派
7. Posted by ある人 2009年07月31日 12:05
「数そのものが普通」と言う意味は皆無でしたが、反響が大きかった様です。
周囲では珍しく無かったため、何気なく発言した書き込みでお騒がせしました。
周囲では珍しく無かったため、何気なく発言した書き込みでお騒がせしました。
8. Posted by 2009年07月31日 14:45
ないものねだりってやつかな。違うだろうけど。
幸せだったなら万事OK
幸せだったなら万事OK
9. Posted by AK 2009年07月31日 18:09
生き方も幸せも人それぞれなんだなあ。
なんか励まされました。がんばろう。
なんか励まされました。がんばろう。
10. Posted by シン 2009年08月03日 06:07
心こそ大切なれ。
私はそう思いたい。
私はそう思いたい。
11. Posted by 雪 2009年08月06日 18:52
なんの皮肉も届いてない辺りがかわいいもんだな
このホームレスにとって必要不可欠な電話すら所持しないのは不思議。
プリペイドの携帯とか考えなかったんだろうか。
物欲ないから野宿はちょっと違うだろーと思う。
このホームレスにとって必要不可欠な電話すら所持しないのは不思議。
プリペイドの携帯とか考えなかったんだろうか。
物欲ないから野宿はちょっと違うだろーと思う。
12. Posted by 2009年08月06日 22:29
梅雨は明けしましたね。
カラっと行きたいもんです。
カラっと行きたいもんです。
13. Posted by 夏 2009年08月19日 01:46
物欲どころか、性欲すら無いのか
ロタさんとも「友だち」にしかなれないと
いうらしいし・・・
写真は、若いころのだろうか
ロタさんとも「友だち」にしかなれないと
いうらしいし・・・
写真は、若いころのだろうか
14. Posted by curo 2009年09月17日 10:26
記事の主旨とはズレるけど、
4億あったらホームレスになってもいいな。
何の不安もない。
4億あったらホームレスになってもいいな。
何の不安もない。
15. Posted by 2009年09月17日 12:52
なんだろう哲学的な話だな
これだけで映画が一つ出来て且つ全米が震撼するだろな
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16. Posted by news 2014年05月07日 03:00
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