2008年01月30日
自分は一人でも生きていける。――そんなふうに思ったことのある人、いざとなればそのつもりだと思っている人、あるいは今現在そんなふうに思うしかない状況に追い込まれている人は決して少なくないだろう。
しかし、ヒトという生き物はもともと一人ぼっちで生活するようには出来ていない。孤独な生活が可能になったのは、あくまで文明のおかげである。「原始時代には、仲間たちから完全に隔離されたり、村八分にされたりすることがあれば、それは死刑を言い渡されたのに等しいことだった」とシカゴ大学の心理学者ニコラス・エプリー氏は言う。
生身の人間は、他の動物と比べて弱すぎる。だから原始時代には、独居生活は不可能に等しく、集団生活を送ることが唯一生き延びる方法だった。しかし、現代文明の中で生きている限り、集団生活は必須条件でない。大人になって一人暮らしの経験がない人の方がむしろ珍しい。
しかし、物理的に孤立した暮らしを送っているとしても、人はどこかで社会とのつながりを求める。エプリー氏によれば、自分が(社会から)隔離されていて孤独だと感じたとき、人は非常につらい気持ちになる。そして、そのつらさを味わい続けている人は、身も心も病に蝕まれていく可能性がある。
「社会的に孤立した状態は、健康に良くないのだ」とエプリー氏は言う。ここで、社会的に孤立した状態とは、精神的に孤立した状態と言い換えてもいいだろう。人間は一人暮らしをしていなくても、精神的に孤立することがある。
にわかに孤独感を覚え始めた人は、昔の友人に連絡を取ったり、新しい仲間を作ろうとしたりする。しかし、どうしても人とのつながりができず、孤独な状態が続くこともある。エプリー氏によれば、社会的に孤立した状態が続いている人は、次のいずれかの行動・思考パターンを示す傾向があるという。
エプリー氏が率いる研究チームでは、上記の2つのパターンが存在することを確認するために、2つの実験を実施した。この実験の内容と結果は、“Psychological Science”誌の2月号で発表されている。
これらの実験は、まず人為的な方法により被験者に孤独感を覚えさせた後、質問に答えさせることにより、被験者がペットを擬人化する傾向と超自然的な力を信じる傾向が高まったかどうかを調べるというものだった。
実験1では、大学生の被験者たちを3つのグループに分け、それぞれのグループに異なる映画のクリップを見せた。そして、できるだけ主人公に感情移入してくれと頼んだ。
クリップを見終えた各グループの被験者は、ペットに関する質問に答えさせられた。「自分が飼っているペットでも、よく知っているペットでもいいから、そのペットに最も当てはまると思われる特徴を選択肢のリストから3つ選べ」というものだった。
リストに記載されている選択肢には、次の2種類が混じっていた。
3つのグループの被験者たちの回答を調べたところ、孤独感を誘引されたグループは他の2つのグループよりも、ペットの特徴を擬人的に説明する傾向が高いことがわかった。
さらに、3つのグループのそれぞれに対し、幽霊、天使、悪魔、奇跡、怨念、そして神の存在をどの程度信じるかを答えるように求めた。回答を調べたところ、これらの超自然的な存在や力を信じる傾向が最も強いのは、やはり孤独感を誘引されたグループであることがわかった。
実験2では、シカゴ大学の学生たちに自分の性格に関する質問表を渡し、選択肢を選ばせた。その際、この質問表はコンピュータで処理され、回答者がどのような人生を送ることになるかが予測されることになると学生たちに信じ込ませておいた。
実際には回答内容をコンピュータで解析したりすることはなく、学生たちを単純に半数ずつ2つのグループに分け、それぞれに異なる“予測結果”を返却した。
上記2つのグループに対し、実験1と同じく、超自然的な存在や力をどの程度信じるかを答えるように求めたところ、やはり同様な結果が得られた。孤独なグループの方が、超自然的な存在や力を強く信じる傾向が認められたのである。
他人とのつながりを持てない人たちは、ペットを擬人化したり、超自然的な力を信じることで孤独感を緩和しているのではないか、とエプリー氏は考えている。実際、ペットを飼ったり、何らかの宗教に帰属したりすることで、幸福感を得ている人たちがいる。
エプリー氏らの研究チームでは、孤独な人たちが示すこのような心の動きについて、今後も研究を進めていく予定だという。
さて、最近の“スピリチャル・ブーム”がまさに精神的に孤独な人に訴えているのではないかという分析をしたくなるところである。実際つい先日も、ある店で飲んでいるときに接客してくれた若い女性から、最近、霊の存在に関心を持つようになって“スピリチャル”関係の本をよく読んでいると聞かされたことがある。
何がきっかけで霊とかに興味を持つようになったのかと尋ねてみると、ある出来事を境に孤独感をひしひしと味わうようになったからだというのが彼女の答えだった。その出来事とは、どうやら失恋のようだった。
しかし、ペットの擬人化や超自然的な存在への傾倒のほかにも、現代人が孤独を癒す方法はある。特にインターネットは、瞬時にして孤独を癒す場をもたらしてくれている。ブログ、SNS、2ちゃんねる、ソーシャル・ブックマーク、オンライン・ゲーム、バーチャル・コニュニティなど、そのような場が実に豊富に用意されている。
若い世代の間で携帯小説が受けているのも、感情移入がしやすく、同じ気持ちを共有しやすいからではないだろうか。物理的にまったく接触がない同士であっても、心のつながりを持つことができる。
現代社会においては、独居イコール孤独ではない。親と一緒に暮らしている若者であっても、心の中は孤独感で満ちているかもしれない。配偶者や子供のいる大人も然り。会社勤めをしていて他人との接触が多くても、心のどこかに孤独感を抱えている人は多いだろう。
■ Reference: Loneliness Breeds Belief in Supernatural
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生身の人間は、他の動物と比べて弱すぎる。だから原始時代には、独居生活は不可能に等しく、集団生活を送ることが唯一生き延びる方法だった。しかし、現代文明の中で生きている限り、集団生活は必須条件でない。大人になって一人暮らしの経験がない人の方がむしろ珍しい。
しかし、物理的に孤立した暮らしを送っているとしても、人はどこかで社会とのつながりを求める。エプリー氏によれば、自分が(社会から)隔離されていて孤独だと感じたとき、人は非常につらい気持ちになる。そして、そのつらさを味わい続けている人は、身も心も病に蝕まれていく可能性がある。
「社会的に孤立した状態は、健康に良くないのだ」とエプリー氏は言う。ここで、社会的に孤立した状態とは、精神的に孤立した状態と言い換えてもいいだろう。人間は一人暮らしをしていなくても、精神的に孤立することがある。
にわかに孤独感を覚え始めた人は、昔の友人に連絡を取ったり、新しい仲間を作ろうとしたりする。しかし、どうしても人とのつながりができず、孤独な状態が続くこともある。エプリー氏によれば、社会的に孤立した状態が続いている人は、次のいずれかの行動・思考パターンを示す傾向があるという。
- 擬人化:コンピュータや自動車など身近な装置類、あるいはペットを擬人化するようになる。
- 超自然的な力への傾倒:超常現象、霊の存在、神の存在などを信じるようになる。
エプリー氏が率いる研究チームでは、上記の2つのパターンが存在することを確認するために、2つの実験を実施した。この実験の内容と結果は、“Psychological Science”誌の2月号で発表されている。
これらの実験は、まず人為的な方法により被験者に孤独感を覚えさせた後、質問に答えさせることにより、被験者がペットを擬人化する傾向と超自然的な力を信じる傾向が高まったかどうかを調べるというものだった。
実験1では、大学生の被験者たちを3つのグループに分け、それぞれのグループに異なる映画のクリップを見せた。そして、できるだけ主人公に感情移入してくれと頼んだ。
- 「キャスト・アウェイ」:トム・ハンクス演じる主人公が無人島に取り残される映画である。クリップを見て主人公に感情移入した被験者は孤独感を誘引されたことになる。
- 「羊たちの沈黙」:恐怖感。
- 「メジャー・リーグ」:上記どちらでもない対照群。
クリップを見終えた各グループの被験者は、ペットに関する質問に答えさせられた。「自分が飼っているペットでも、よく知っているペットでもいいから、そのペットに最も当てはまると思われる特徴を選択肢のリストから3つ選べ」というものだった。
リストに記載されている選択肢には、次の2種類が混じっていた。
- ペットの特徴を擬人的に説明する選択肢:「思慮深い」、「思いやりがある」など
- ペットの特徴を単に行動面から説明する選択肢:「攻撃的」、「活発」など
3つのグループの被験者たちの回答を調べたところ、孤独感を誘引されたグループは他の2つのグループよりも、ペットの特徴を擬人的に説明する傾向が高いことがわかった。
さらに、3つのグループのそれぞれに対し、幽霊、天使、悪魔、奇跡、怨念、そして神の存在をどの程度信じるかを答えるように求めた。回答を調べたところ、これらの超自然的な存在や力を信じる傾向が最も強いのは、やはり孤独感を誘引されたグループであることがわかった。
実験2では、シカゴ大学の学生たちに自分の性格に関する質問表を渡し、選択肢を選ばせた。その際、この質問表はコンピュータで処理され、回答者がどのような人生を送ることになるかが予測されることになると学生たちに信じ込ませておいた。
実際には回答内容をコンピュータで解析したりすることはなく、学生たちを単純に半数ずつ2つのグループに分け、それぞれに異なる“予測結果”を返却した。
- グループ1:中年期以降に孤独な生活を送ることになるという“予測結果”
- グループ2:社会とのつながりに満ちた人生を送るという“予測結果”
上記2つのグループに対し、実験1と同じく、超自然的な存在や力をどの程度信じるかを答えるように求めたところ、やはり同様な結果が得られた。孤独なグループの方が、超自然的な存在や力を強く信じる傾向が認められたのである。
他人とのつながりを持てない人たちは、ペットを擬人化したり、超自然的な力を信じることで孤独感を緩和しているのではないか、とエプリー氏は考えている。実際、ペットを飼ったり、何らかの宗教に帰属したりすることで、幸福感を得ている人たちがいる。
エプリー氏らの研究チームでは、孤独な人たちが示すこのような心の動きについて、今後も研究を進めていく予定だという。
さて、最近の“スピリチャル・ブーム”がまさに精神的に孤独な人に訴えているのではないかという分析をしたくなるところである。実際つい先日も、ある店で飲んでいるときに接客してくれた若い女性から、最近、霊の存在に関心を持つようになって“スピリチャル”関係の本をよく読んでいると聞かされたことがある。
何がきっかけで霊とかに興味を持つようになったのかと尋ねてみると、ある出来事を境に孤独感をひしひしと味わうようになったからだというのが彼女の答えだった。その出来事とは、どうやら失恋のようだった。
しかし、ペットの擬人化や超自然的な存在への傾倒のほかにも、現代人が孤独を癒す方法はある。特にインターネットは、瞬時にして孤独を癒す場をもたらしてくれている。ブログ、SNS、2ちゃんねる、ソーシャル・ブックマーク、オンライン・ゲーム、バーチャル・コニュニティなど、そのような場が実に豊富に用意されている。
若い世代の間で携帯小説が受けているのも、感情移入がしやすく、同じ気持ちを共有しやすいからではないだろうか。物理的にまったく接触がない同士であっても、心のつながりを持つことができる。
現代社会においては、独居イコール孤独ではない。親と一緒に暮らしている若者であっても、心の中は孤独感で満ちているかもしれない。配偶者や子供のいる大人も然り。会社勤めをしていて他人との接触が多くても、心のどこかに孤独感を抱えている人は多いだろう。
■ Reference: Loneliness Breeds Belief in Supernatural
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この記事へのコメント
1. Posted by N-B 2008年01月30日 16:52
「スピリチュアル」は友人の代替物ではなく、世界観の代替物です。
孤独だから霊や、擬人化したモノをお友達にしたくなるのではない。不安だから、現実の混沌さを厭い、浅薄でもっともらしい、万物をカンタンに説明してしまうセオリーに逃げ込んでしまう。
ネットにハマるのも同じですね。そこに他人が居て共感し合えるからじゃなく、そこだけの、そこ以外じゃ通じないルールでまわってる「場」だから居心地いい。あるいは逆に全く受け付けない。
現実の途方もない混沌の因果律を厭い、より単純な小世界に安住したがる構図はどこにでも見出せる。仕事中毒とか過激派とかカルトとか。
ホモ接合の話もそうだけど、こういうアホなことを大まじめに研究してるのって、しかし皮肉じゃなく欧米のアカデミズムの裾野の広さ、厚さを感じますね。日本ではエラくない学者は小さくなって黙ってるだけ。
孤独だから霊や、擬人化したモノをお友達にしたくなるのではない。不安だから、現実の混沌さを厭い、浅薄でもっともらしい、万物をカンタンに説明してしまうセオリーに逃げ込んでしまう。
ネットにハマるのも同じですね。そこに他人が居て共感し合えるからじゃなく、そこだけの、そこ以外じゃ通じないルールでまわってる「場」だから居心地いい。あるいは逆に全く受け付けない。
現実の途方もない混沌の因果律を厭い、より単純な小世界に安住したがる構図はどこにでも見出せる。仕事中毒とか過激派とかカルトとか。
ホモ接合の話もそうだけど、こういうアホなことを大まじめに研究してるのって、しかし皮肉じゃなく欧米のアカデミズムの裾野の広さ、厚さを感じますね。日本ではエラくない学者は小さくなって黙ってるだけ。
2. Posted by OA 2008年01月30日 18:21
周囲に↑書かれているような人が多くて暗い気持ちになります。
未来が不安だからと子供を作らず代わりのペットを擬人化し、スピリチュアルという名のイカサマに近い番組みて自分を慰めているような。。。
孤独な人が多い世の中ですね。
未来が不安だからと子供を作らず代わりのペットを擬人化し、スピリチュアルという名のイカサマに近い番組みて自分を慰めているような。。。
孤独な人が多い世の中ですね。
3. Posted by 2008年01月30日 19:44
>>未来が不安だからと子供を作らず代わりのペットを擬人化し
ペットを溺愛することは別に問題ないような・・
むしろそういう人たちって孤独と折り合いをつけてうまくつきあえてるような気もします
カルト宗教にはまり金を貢いだり、ホストやキャバ嬢に貢いだりする人は心配だなと思いますが
人間は孤独を感じる本能が備わってるわけだから、いつの時代も同じように感じて生きてきたんだろうなあと思います
孤独がなかった時代は戦時中くらいですかね
そんなもん感じてる余裕もなかったでしょうし
そう思えば孤独も贅沢病ってことなのかなと
そんな自分もネット依存症ですが・・
ペットを溺愛することは別に問題ないような・・
むしろそういう人たちって孤独と折り合いをつけてうまくつきあえてるような気もします
カルト宗教にはまり金を貢いだり、ホストやキャバ嬢に貢いだりする人は心配だなと思いますが
人間は孤独を感じる本能が備わってるわけだから、いつの時代も同じように感じて生きてきたんだろうなあと思います
孤独がなかった時代は戦時中くらいですかね
そんなもん感じてる余裕もなかったでしょうし
そう思えば孤独も贅沢病ってことなのかなと
そんな自分もネット依存症ですが・・
4. Posted by a 2008年01月31日 02:13
若い世代の間で携帯小説が受けているのも〜ってのは飛躍しすぎじゃないのか。そもそも携帯小説は隙間産業に過ぎない。
けれど、携帯の普及率と何らかの関係はあるかもしれない。
けれど、携帯の普及率と何らかの関係はあるかもしれない。
5. Posted by 、 2008年01月31日 11:08
スピリチャルとか神とか絶対信じてないし擬人化とかしてない私は孤独じゃないのかな?
友達少ないんだけどな(´・ω・`)
友達少ないんだけどな(´・ω・`)
6. Posted by mobaseek 2008年01月31日 15:51

7. Posted by q 2008年01月31日 23:11
どなたかは存じませんがある漫画家さんが「オカルトの本質は一発逆転の夢だ」というようなことを仰っていたそうで、その話を聞いたときには上手いことを言うと思ったものですが、裏付けを得た感じですね。
8. Posted by toh 2008年02月09日 14:04
「NHKにようこそ」で家電たちが主人公に話しかけてくるのはこういう合理的な理屈に基づいた設定だったのか。なるほど。