2007年02月14日
今思い起こせば、人生の通過点のどこかで、ごくわずかな時間を共有しただけに過ぎないのに、どうしても忘れられない人。淡い恋心を抱いていたかどうかさえ微妙、個人的な会話を交わしたことすら、ほとんどない。名前をはっきり思い出すことすらできない。なのに、その人の姿かたち、かもし出す雰囲気は今でも脳裏に浮かぶ。あなたには、そんな思い出の人がいたりしないだろうか?
米国テネシー州ノックスビルで暮らしているラルフ・ダイアルさんにも、そんな思い出の人がいた。彼女と出会ったのは、もう60年も昔のこと。そう、第二次大戦の最中のことだ。
当時、ラルフさんは軍需工場で責任のある仕事をしていた。ある日、ふさふさした黒髪の女性が工場に初出勤してきた。彼女はダイアルさんの部下になった。
ラルフさんは、彼女が一番最初に自分に報告に来たときの光景をまざまざと思い出すことができる。彼は階段の吹き抜けに立っていた。そこに彼女がやってきた。
彼女は、モナリザのような微笑をたたえて、ラルフさんに話しかけてきた。ラルフさんは思わず息を呑んだ。だが、一目惚れしたり恋心を抱いたりしてよい相手ではなかった。彼女が自分の部下だったからだけではない。彼女は、既に人妻だった。彼女の夫は戦地で合衆国のために戦っていた。
ラルフさんも、やがて別の女性と結婚し子供をもうけた。だが、モナリザのような微笑をたたえていた彼女のことは、いつも頭の片隅にあった。あの時代から何十年過ぎても彼女のことを忘れることはなかった。ただ、年月が経つうちに彼女の名前を思い出せなくなってしまった。
2002年の初めに、ラルフさんは長年連れ添った妻を亡くした。2人の娘は、テネシー州に隣接するジョージア州、同じく隣接するアラバマ州で家庭を築いていた。その年のクリスマスは、一人で車を運転して2人の娘の家を訪ねた。
娘と孫たちを訪ねた後、テネシー州ノックスビルへの帰路を運転していたラルフさんの脳裏に突然、彼女の名前が蘇った。そうだ! ヴィニータ・アンダーソン! それが彼女の名前だった。
だが、あの時代から60年近い年月が経っていた。彼女はもうこの世にいないかもしれない。もしかしたら、旦那さんと二人で仲良く暮らしているかもしれない。もしかしたら、自分と同じように配偶者に先立たれて一人で暮らしているかもしれない。いずれにせよ、名前が分かったところで、彼女の消息を知る手かがりはどこにもなかった。
家に帰り着くと、娘たちの家に泊まっていた間に宅配されたノックスビルの地元紙News Sentinelが過去数日分溜まっていた。あの彼女の名前がヴィニータ・アンダーソンであることを思い出したのはよいが、結局、消息を調べるすべもなかったラルフさんは、数日分の新聞に目を通してみることにした。
ある日の新聞を手に取り、1つの記事をじっくり読んだ後、何ページかぱらぱらめくっていると、投書欄が目に付いた。そして、ある投書に彼の目が釘付けになった。その投書を出したのは、ヴィニータ・アンダーソンという名前の女性だった。
ローカル紙News Sentinelを購読している地域内でヴィニータ・アンダーソンという名前の女性が何人もいる可能性は低かった(注:ラストネームのAndersonはありふれた名前だが、Vinitaというファーストネームはそう多くない)。だから、ラルフさんは、あのヴィニータがまだ生きているに違いないと確信し、電話帳で調べてみることにした。だが、該当する電話番号は記載されていなかった。
そこで、ラルフさんはNews Sentinelに連絡を取って事情を説明した。編集部がラルフさんの代わりに投書者のヴィニータ・アンダーソンという女性に電話を入れてくれた。そのわずか数分後、ラルフさんの家に電話がかかってきた。
人違いなんかではなかった。ヴィニータさんもラルフさんのことをよく覚えていて、何の躊躇もなくラルフさんに即座に電話を入れたのである。
人生の通過点ですれ違ったに過ぎないかに見えた二人。だが、二人は見えない糸で繋がっていた。60年もの歳月を経て、見えない糸が見える糸に姿を変えた瞬間だった。
ヴィニータさんの住まいは、ラルフさんの住まいから50キロ弱しか離れていなかった。二人は、その狭い地域の中で、お互いの消息をまったく知らぬまま、あの時代の後に続いた長い歳月を生きてきたのだ。
そして、ラルフさんが独り身なら、ヴィニータさんも1991年に夫に先立たれて独り身だった。人生の最終局面を迎えるまでに老いた二人ではあったが、60年前の二人が進むことが決してありえなかった道筋が二人の前に開けた。
二人は約60年ぶりの再会を果たし、レストランでディナーを食しながら、思い出話とその後の自分の身の上について尽きることのない話に花を咲かせた。二人は、その日から交際を続けてきた。
そして4年後、ラルフさんはヴィニータさんにプロポーズした。来る3月17日に二人は式を挙げ、晴れて夫婦となる。
★ ★ ★
どんなに平々坦々に見えても、人生には必ずどこかでドラマがある。そう信じてよい気にさせてくれる話である。
運転中のラルフさんが数十年ぶりにヴィニータさんの名前を思い出したのは、単なる偶然ではないだろう。思い出した当日に新聞を見ると、ヴィニータさんの名前があったのも単なる偶然ではないだろう。
ソースには具体的な年齢の記述がないが、二人とも、かなりの高齢(80歳以上は確実で、ラルフさんは90歳を超えているかも)。若かりし日にいったんはすれ違った二人が、人生に残された最後のぎりぎりの時間のうちに再会を果たし、結ばれたのである。
ソースの記述は簡潔で、かなり淡々としている。だが、当ブログでこういう題材を取り上げるときの常として、脚色はしないが、シチュエーションの記述部分にかなり肉付けをしてあることをお断りしておく。
■ Source: Couple decides to marry after meeting 60 years earlier
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ラルフさんは、彼女が一番最初に自分に報告に来たときの光景をまざまざと思い出すことができる。彼は階段の吹き抜けに立っていた。そこに彼女がやってきた。
彼女は、モナリザのような微笑をたたえて、ラルフさんに話しかけてきた。ラルフさんは思わず息を呑んだ。だが、一目惚れしたり恋心を抱いたりしてよい相手ではなかった。彼女が自分の部下だったからだけではない。彼女は、既に人妻だった。彼女の夫は戦地で合衆国のために戦っていた。
ラルフさんも、やがて別の女性と結婚し子供をもうけた。だが、モナリザのような微笑をたたえていた彼女のことは、いつも頭の片隅にあった。あの時代から何十年過ぎても彼女のことを忘れることはなかった。ただ、年月が経つうちに彼女の名前を思い出せなくなってしまった。
2002年の初めに、ラルフさんは長年連れ添った妻を亡くした。2人の娘は、テネシー州に隣接するジョージア州、同じく隣接するアラバマ州で家庭を築いていた。その年のクリスマスは、一人で車を運転して2人の娘の家を訪ねた。
娘と孫たちを訪ねた後、テネシー州ノックスビルへの帰路を運転していたラルフさんの脳裏に突然、彼女の名前が蘇った。そうだ! ヴィニータ・アンダーソン! それが彼女の名前だった。
だが、あの時代から60年近い年月が経っていた。彼女はもうこの世にいないかもしれない。もしかしたら、旦那さんと二人で仲良く暮らしているかもしれない。もしかしたら、自分と同じように配偶者に先立たれて一人で暮らしているかもしれない。いずれにせよ、名前が分かったところで、彼女の消息を知る手かがりはどこにもなかった。
家に帰り着くと、娘たちの家に泊まっていた間に宅配されたノックスビルの地元紙News Sentinelが過去数日分溜まっていた。あの彼女の名前がヴィニータ・アンダーソンであることを思い出したのはよいが、結局、消息を調べるすべもなかったラルフさんは、数日分の新聞に目を通してみることにした。
ある日の新聞を手に取り、1つの記事をじっくり読んだ後、何ページかぱらぱらめくっていると、投書欄が目に付いた。そして、ある投書に彼の目が釘付けになった。その投書を出したのは、ヴィニータ・アンダーソンという名前の女性だった。
ローカル紙News Sentinelを購読している地域内でヴィニータ・アンダーソンという名前の女性が何人もいる可能性は低かった(注:ラストネームのAndersonはありふれた名前だが、Vinitaというファーストネームはそう多くない)。だから、ラルフさんは、あのヴィニータがまだ生きているに違いないと確信し、電話帳で調べてみることにした。だが、該当する電話番号は記載されていなかった。
そこで、ラルフさんはNews Sentinelに連絡を取って事情を説明した。編集部がラルフさんの代わりに投書者のヴィニータ・アンダーソンという女性に電話を入れてくれた。そのわずか数分後、ラルフさんの家に電話がかかってきた。
人違いなんかではなかった。ヴィニータさんもラルフさんのことをよく覚えていて、何の躊躇もなくラルフさんに即座に電話を入れたのである。
人生の通過点ですれ違ったに過ぎないかに見えた二人。だが、二人は見えない糸で繋がっていた。60年もの歳月を経て、見えない糸が見える糸に姿を変えた瞬間だった。
ヴィニータさんの住まいは、ラルフさんの住まいから50キロ弱しか離れていなかった。二人は、その狭い地域の中で、お互いの消息をまったく知らぬまま、あの時代の後に続いた長い歳月を生きてきたのだ。
そして、ラルフさんが独り身なら、ヴィニータさんも1991年に夫に先立たれて独り身だった。人生の最終局面を迎えるまでに老いた二人ではあったが、60年前の二人が進むことが決してありえなかった道筋が二人の前に開けた。
二人は約60年ぶりの再会を果たし、レストランでディナーを食しながら、思い出話とその後の自分の身の上について尽きることのない話に花を咲かせた。二人は、その日から交際を続けてきた。
そして4年後、ラルフさんはヴィニータさんにプロポーズした。来る3月17日に二人は式を挙げ、晴れて夫婦となる。
どんなに平々坦々に見えても、人生には必ずどこかでドラマがある。そう信じてよい気にさせてくれる話である。
運転中のラルフさんが数十年ぶりにヴィニータさんの名前を思い出したのは、単なる偶然ではないだろう。思い出した当日に新聞を見ると、ヴィニータさんの名前があったのも単なる偶然ではないだろう。
ソースには具体的な年齢の記述がないが、二人とも、かなりの高齢(80歳以上は確実で、ラルフさんは90歳を超えているかも)。若かりし日にいったんはすれ違った二人が、人生に残された最後のぎりぎりの時間のうちに再会を果たし、結ばれたのである。
紙一重指数9 | ■■■■■■■■■□ |
ソースの記述は簡潔で、かなり淡々としている。だが、当ブログでこういう題材を取り上げるときの常として、脚色はしないが、シチュエーションの記述部分にかなり肉付けをしてあることをお断りしておく。
■ Source: Couple decides to marry after meeting 60 years earlier
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この記事へのコメント
1. Posted by QC 2007年02月14日 03:20

でもなんかあついものが込み上げてきそうな良い話
2. Posted by 真ん中ミヤ 2007年02月14日 08:17

今好きな人いるけど、あたしにも忘れられない人が一人いて、常にじゃないけど二日に一回は頭をよぎる…
ウ゛ィニータ&ラルフみたいに老いぼれて出会えたらロマンティックだわ☆
でも今はこの恋を大事に…
4. Posted by uno 2007年05月25日 21:03

いやはや、運命で結ばれた二人も素晴らしい事ながら、「単なる偶然ではないだろう」と結ぶ筆者さんもなかなか。
このようなお歳を感じさせない愛を持つお二人が、是非末永く、幸せに暮らすことを願っております。
5. Posted by like this 2014年05月10日 21:29
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