2006年11月23日
地上30メートルの高さから落下した物体は、約2.5秒後に地面に達する。ゆえに、アパート9階の窓から74歳の父が身を投じたとき、地上にいた47歳の息子に与えられた時間は、約2.5秒しかなかった。地面に激突するのをただ眺めているほかないのか。それとも、受け止めるべきなのか。息子は後者を選んだ。
インドのエンジニア、スディール・ガルグさん(47歳)は、デリーのドワールカ地区にあるアパートの9階で妻、2人の子供、そして実父と共に暮らしていた。その日、午前9時ごろ、父のカイラシュ・チャンドさん(74歳)が自分の部屋に引きこもり、ドアを内側からボルト留めして外から開かないようにしてしまった。
そして部屋の中から家族に向かって言い放った。「わしは死ぬことにした。邪魔をするでないぞ」
息子のスディールさんはドアを何度も叩いて、思いとどまるように父を説得しようとした。だが父は聞く耳を持たない。
父が本当に自ら命を絶つとしたら、窓から身を投げるに違いない。そう確信したスディールさんは、地階に駆け下りた。地上から9階を見上げると、やはり父が身を窓から乗り出していた。スディールさんは地上から声を張り上げて、お願いだからやめてくれと父に懇願した。だが、父を説得することはできなかった。
父の体が宙に舞った。冒頭に書いたように、9階の高さが30メートルであったと仮定すると、そのとき息子に与えられた時間は、約2.5秒しかなかった。ここのところ心を病んで精神科に通院していた父ではあったが、愛する父であることに変わりはなかった。愛する人をみすみす死なせるわけにはいかない。何としても助けなければならない。
スディールさんは、落下してくる父の体を受け止めて救おうと、手を広げ足を踏ん張った。エンジニアであったにも関わらず、極限状況に追い込まれたスディールさんには客観的・科学的な判断ができなかったということか。父の体は運動エネルギーの塊となって息子に襲い掛かった。
地上30メートルの高さから落下した物体が地面に達するときの速度は、時速にして約87km/h、秒速にして約24m/secである。父カイラシュ・チャンドさんの体重が70kgであったと仮定すると、スディールさんは、20トンを超える衝撃に身をさらしたことになる。
父はその場で死亡が確認された。息子も凄まじい衝撃を浴びて、その場に押し潰されるように倒れていた。病院に搬送されたが、体の損傷がひどく、病院到着時には既に死亡していた。
なんとも痛ましい出来事である。2.5秒で最善の選択を下すのは難しい。当ブログでは、極限状況下のわずかな時間で勇気を振り絞って最善の選択をした人たちの話をこれまで何度も取り上げてきたが(下記「関連記事」参照)、本件は、振り絞った勇気が最悪の結果を招いた事例ということになるだろう。
ただ、「最悪の選択」というひとことで片付けてしまうのは忍びない。愛する肉親をなんとしても救いたいという、ひたすら純粋な気持ちがそこにはあったはずだからだ。最悪な結果に至ったとは言え、けなげな行動であったことは否定できまい。
■ Source: http://www.hindustantimes.com/news/
7242_1850031,00180007.htm
【関連記事】
そして部屋の中から家族に向かって言い放った。「わしは死ぬことにした。邪魔をするでないぞ」
息子のスディールさんはドアを何度も叩いて、思いとどまるように父を説得しようとした。だが父は聞く耳を持たない。
父が本当に自ら命を絶つとしたら、窓から身を投げるに違いない。そう確信したスディールさんは、地階に駆け下りた。地上から9階を見上げると、やはり父が身を窓から乗り出していた。スディールさんは地上から声を張り上げて、お願いだからやめてくれと父に懇願した。だが、父を説得することはできなかった。
父の体が宙に舞った。冒頭に書いたように、9階の高さが30メートルであったと仮定すると、そのとき息子に与えられた時間は、約2.5秒しかなかった。ここのところ心を病んで精神科に通院していた父ではあったが、愛する父であることに変わりはなかった。愛する人をみすみす死なせるわけにはいかない。何としても助けなければならない。
スディールさんは、落下してくる父の体を受け止めて救おうと、手を広げ足を踏ん張った。エンジニアであったにも関わらず、極限状況に追い込まれたスディールさんには客観的・科学的な判断ができなかったということか。父の体は運動エネルギーの塊となって息子に襲い掛かった。
地上30メートルの高さから落下した物体が地面に達するときの速度は、時速にして約87km/h、秒速にして約24m/secである。父カイラシュ・チャンドさんの体重が70kgであったと仮定すると、スディールさんは、20トンを超える衝撃に身をさらしたことになる。
父はその場で死亡が確認された。息子も凄まじい衝撃を浴びて、その場に押し潰されるように倒れていた。病院に搬送されたが、体の損傷がひどく、病院到着時には既に死亡していた。
なんとも痛ましい出来事である。2.5秒で最善の選択を下すのは難しい。当ブログでは、極限状況下のわずかな時間で勇気を振り絞って最善の選択をした人たちの話をこれまで何度も取り上げてきたが(下記「関連記事」参照)、本件は、振り絞った勇気が最悪の結果を招いた事例ということになるだろう。
ただ、「最悪の選択」というひとことで片付けてしまうのは忍びない。愛する肉親をなんとしても救いたいという、ひたすら純粋な気持ちがそこにはあったはずだからだ。最悪な結果に至ったとは言え、けなげな行動であったことは否定できまい。
けなげさ7 | ■■■■■■■□□□ |
■ Source: http://www.hindustantimes.com/news/
7242_1850031,00180007.htm
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1. 9階の窓から落下した父を地上の息子がキャッチするも、双方帰らぬ人に 他 [ 風風書堂‐ニュースログ‐ ] 2006年11月24日 20:07
9階の窓から落下した父を地上の息子がキャッチするも、双方帰らぬ人に
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2. 浪費ではないハズ 〜waisted〜 [ ◆ケイモウ・アナライズ◆ ] 2006年12月02日 23:13
久しぶりに仕事が早く終わったので、またブックオク行ってきた。
『鋼の錬金術師』全巻と『The Music』、『Hoobastank』のCDを買ってきた。
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この記事へのコメント
1. Posted by ミヤ 2006年11月23日 19:21

自殺の理由がなんであれ、自殺した人に涙は流す必要ないと思う。
2. Posted by ・ 2006年11月24日 01:16
↑最近このような意見が多いですね、必要があるかどうかでなく、涙を流す関係ならどのような原因の死であっても悲しむのは自然な事。ついでにこの場合勇気があるとか、客観的・科学的な判断がどうとかでなく、体がかってに動いてしまったんでしょうね。
3. Posted by TORTOISE 2006年11月24日 01:51

自分だったら自分の命を捨ててまで他人を助けようとできるか…
4. Posted by 、 2006年11月24日 04:56

5. Posted by 2006年11月24日 05:59
そうか、おれはやはり困っている人がいたら知らんぷりすることにしよう、と極論。
6. Posted by mw 2006年11月24日 09:55
こういう状況で
「体のリミッターが外れてとてつもない力が出て助かった」
ってのはよく聞くんだけどね…
この記事の結果の方が当たり前なのだろうけど新鮮さを感じた
「体のリミッターが外れてとてつもない力が出て助かった」
ってのはよく聞くんだけどね…
この記事の結果の方が当たり前なのだろうけど新鮮さを感じた
7. Posted by 愛読者 2006年11月25日 03:41

わたしはかなりの高層マンション暮らしなので地上到達時に時速二百キロに達していそうです。体重は軽いですけど、速度の二乗に比例ですものね。
8. Posted by 内弁慶ならぬネット弁慶 2007年12月01日 21:05
重力には常に存在しつつけるからな新たに生まれたりはしない、だからこそ普段はその存在を特別に意識することはないから驚いた。
直接的にエネルギーを知覚する事が出来ないものか…
直接的にエネルギーを知覚する事が出来ないものか…