2006年06月18日
この夏にロンドン・ピカデリーで開催される展覧会に向けてアーティストたちから送られてきた作品を英国美術院の審査員たちが審査していた。審査員たちは、ウェスト・サセックス州の彫刻家デビッド・ヘンゼル氏の作品の審査に取り掛かった。ヘンゼル氏からは、別々に梱包された“2つの作品”が提出されていた。
- 作品1 ― 人間の頭部と顔面だけを模した彫刻。尖った鼻を持つ顔が頬の筋肉を隆起させながら大きく口を開いて笑っている。
- 作品2 ― 長方形の輪郭を持つ石板。この石板と同じ梱包の中に、骨の形をした木工物が入っていた。審査員たちは、その木工物を石板の上面中央に載せた。これが完成形に違いないと判断した。
審査員たちは作品1(笑っている顔面)の方にあまり好印象を持たなかった。シンプルなデザインの作品2(石板)の方が評価が高かった。そこで、作品1は却下し、作品2を採用することにした。(下記の2つのソース記事に写真が掲載されている)。
一方、当の彫刻家ヘンゼル氏(64歳)は出品が認められたことを知らされ、一般公開に先駆けて行なわれる内覧会にわくわくしながらやってきた。
だが、ヘンゼル氏は展示されている“作品”を見て我が目を疑った。それは作品ではなかった。“笑う顔”がどこにも見当たらず、“笑う顔”の台座だけが展示されていたのである。
さすがにこれは間違いだろうとヘンゼル氏は思った。きっと、スタッフが地下の作品庫から搬出して展示するのを忘れたのだろう、と。
しかし、実際には上記のように、梱包が2個口であったばかりに審査員たちが1つの作品を2つの別個の作品と思い込んでしまったわけである。
英国美術院は、今のところ“石板”を1つの作品として展示する予定を覆していない。次のような声明が出されている。
- ヘンゼル氏の作品“One Day Closer To Paradise”(楽園まであと1日)は、2つに別れた状態で提出されました。よって、別々に提出されたそれぞれの部分が個別に審査されました。
- 作品が作者の意図するとおりに展示されないことがあるのも、通例の1つです。
- 笑う顔面の彫刻については、作者の方が今すぐにでもお持ち帰りになれるように安全に保管されています。
ただし、“石板”は、本来その上に置かれているべき“頭部”を置いた状態で(つまり作者ヘンゼル氏が意図したとおりに)展示される可能性もある。展覧会のコーディネーターたちが招集され、最終的な判断に向けて討議が行なわれているとのこと。
笑う顔面の彫刻が“本”であり、台座が“末”であるとするなら、本件はまさしく本末転倒である。
本末転倒度10 | ■■■■■■■■■■ |
モデルや女優がデビューに至っるきっかけとして、「友人の付き添いで出かけたオーディション会場でスカウトされる」というパターンがたまにある。付き添ってもらった方の友人は、内心はさぞかしくやしいだろう。この“笑う顔”も“台座”に主役の座を奪われるなんて、さぞかしクヤシイ思いをしているかもしれない。
あるいは、自分が一番自信を持っている点を評価されず、自分にとっては二の次の部分を評価されたり気に入られたりして歯がゆい思いをしている人の場合にも通じるものがあるかもしれない。
ただ、下記のソース記事に掲載されている写真を見ると、骨を模した木工物をぽつりと中央部に置いただけの石板には、日本の「わび・さび」や茶道具を髣髴とさせるような枯れた味わいがあるように見えなくもない。審査員たちも、実のところ、そっち方面の観点から“台座”を高く評価したのかもしれない。
■ Sources:
- Zee News - Art gallery displays plinth by mistake
- BBC NEWS | England | Southern Counties | Empty plinth sidelines sculpture
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1. 本体よりも、台座が評価された作品。 [ 世界一バカ、決定戦!! ] 2006年06月18日 21:16
芸術って、本当にみんな理解してるの?