2006年04月12日
豪州ニューキャッスル大学の研究者たちが昨今の製薬業界のあり方に関して、こう警鐘を鳴らしている。「製薬会社は、薬の売り上げを伸ばすために病気を発明している」。
“病気を発明する”とは、なかなかセンセーショナルな表現である。製薬会社が新しい病原体を開発してばら撒いた上で、特効薬を発売しているという意味なのかと早とちりする人さえいそうだ。さすがに、そこまで大掛かりな陰謀を意味しているわけではない。
ニューキャッスル大学の研究者たちが“Public Library of Science Medicine” 誌に発表した論文によると、製薬会社は、存在しない病気を創作し、さほど深刻でもない健康上の問題をその病気に結び付けるように誘導しているという。そして、その“病気”に効果があるとする医薬品を製造、販売して利益を得ているというのである。
製薬会社が架空の病気を捏造したり、症状の重大性を誇張したりするなどの情報操作により、薬の売り上げを伸ばそうとする“マーケティング戦術”は、disease-mongeringと呼ばれている。日本語での定訳はまだないと思われるが、“病気デマ”と訳しておこう。
論文の著者デビッド・ヘンリー氏とレイ・モイニハン氏は、”病気デマ”の最も顕著な例として以下を挙げている。
ヘンリー氏とモイニハン氏の論文には、こう書かれている。「“病気デマ”は、従来の病気の範囲を拡大して新たな病気の概念を流布することにより、薬品や治療法の市場を拡大させていく手法である」
捏造された病気の概念を定着させる上で最も大きな役割を果たしているのは、製薬会社の資金提供で行なわれる健康意識向上キャンペーンだという。そして、この手のキャンペーンは、病気の予防や健康の維持に関して人々に情報や知識を与えることよりも、医薬品を売り込むことを狙いとしていることの方が多いのだ、と。
ヘンリー氏とモイニハン氏は、医師、患者、および各種支援団体に対し、このような製薬業界のマーケティングの術中にはまらないように注意を呼びかけている。さらに、新たな病気が取り沙汰されたときには、実際にそのような病状が存在するかどうかを精査する必要があるとしている。
「健康維持の専門家や健康推進団体が自己の利益追求よりも何よりも、患者の幸福を第一に考えているのは当然のことである。だが、そのような純粋な動機がしばしば製薬会社のマーケティングに悪用されている」
つまり、捏造された病気の概念が定着するプロセスには、いろんな立場の人たちが関わっている。その中には、患者のために良かれと信じている人たちも含まれているというわけである。
さて、当然のことながら、製薬業界からは反論が出ている。英国製薬業協会のリチャード・レイ氏によると、ヘンリー氏とモイニハン氏が槍玉に上げているのは主に米国の製薬業界であって、英国の場合は事情が大きく異なるという。
米国では、製薬会社がさまざまな手段で医薬品を売り込むことが許されているが、英国では製薬会社の広告活動がはるかに厳しく規制されている。よって、自分たち英国の製薬業界には該当しない話だ。というのがリチャード・レイ氏の主張。
さらにレイ氏は、こう付け加えている。「製薬業界が病気を発明しているという表現は、いかがなものかと思います。病気かどうかを決めるのは、製薬会社ではなく現場の医師の仕事です。製薬会社が介入できない部分の話ですよ」
さて、当ブログでは、メディカル系の話を取り上げることが多い。だが筆者は、病院がそんなに好きではない。病院は、ひょっとして病気を治す場所ではなく、病気を作る場所なのではないかと思うこともあったりする。常日頃そんなふうに感じている筆者にとって、上記の説は、“さもありなん”と言ったところである。
病気でもないのに病気と診断されて、薬を処方されて・・・というのは、これまた相当に本末転倒な話にも見える。だが、今まで、どの病院にかかって診てもらってもはっきりした診断が下りなかった患者にとって、新しい病気の概念は精神的な救いになることもあるだろう。
人は自分がかかえている不調や問題を明確な名前で分類してもらうと、ほっとすることがある。心理テストが流行ったりするのも、その辺に理由があるだろう。
自分の不調は、こういう病気にかかっていたからなんだ―と納得した患者は、ありがたく薬の投与を受ける。
新しい概念を生み出すことで需要を創出するというアプローチ自体は、現代経済の至るところに遍在している。金融業界やソフトウェア業界など、まさにそのモデルの上に成り立ってきた感が強い。
製薬会社の“病気デマ”を本末転倒と決め付けてしまうのは、現代経済社会全体を本末転倒と決め付けるのに等しいかもしれない。それでも、本末転倒な要素があることは否定できない。産業繁栄のためには、本末転倒さが欠かせないとも言えるだろう。
【付記】
結果と原因が入れ替わって本末転倒になっていようがいるまいが、オポチュニティ(商機会)が創出されれば産業は潤う。コンピュータ・ウィルスやサイバー犯罪にしても、ソフトウェア会社に相当なオポチュニティをもたらしている。“病気デマ”もオポチュニティを創出していることに違いはないだろう。ただし、患者が不適切な投薬を受けるリスクもあるわけで、上記の研究者たちはそれを懸念しているようだ。
■ Source: http://news.bbc.co.uk/1/hi/health/4898488.stm
【関連記事】
ニューキャッスル大学の研究者たちが“Public Library of Science Medicine” 誌に発表した論文によると、製薬会社は、存在しない病気を創作し、さほど深刻でもない健康上の問題をその病気に結び付けるように誘導しているという。そして、その“病気”に効果があるとする医薬品を製造、販売して利益を得ているというのである。
製薬会社が架空の病気を捏造したり、症状の重大性を誇張したりするなどの情報操作により、薬の売り上げを伸ばそうとする“マーケティング戦術”は、disease-mongeringと呼ばれている。日本語での定訳はまだないと思われるが、“病気デマ”と訳しておこう。
注:この記事を最初に投稿したときは、disease-mongeringの仮訳として「病気捏造」を当てていたが、むしろ不安を扇動するという意味合いが強いと思われるので“病気デマ”に変更することにした。ま、“ディジーズ・モンガリング”とカタカナ表記にしておくのが一番楽な対応ではあるのだが。
論文の著者デビッド・ヘンリー氏とレイ・モイニハン氏は、”病気デマ”の最も顕著な例として以下を挙げている。
- 下肢静止不能症候群(むずむず足症候群) ― 寝ているときなどに足がむずむずする人は、この病気と診断される。下肢静止不能症候群自体は、捏造ではなく実在する病気だが、実際にはごく稀にしか起きない。にもかかわらず、多数の患者がこの病気と診断され、治療薬が処方されている。
- 過敏性腸症候群(過敏性大腸) ― 精神的な原因で突然下痢になる人は、この病気と診断される。通常は、健康上の大きな問題とはならないのに、治療が必要な重大な病気として扱われることがある。(筆者も、過敏性大腸じゃないかと医師に言われたことがあるが、投薬は受けなかった)。
- 更年期障害 ― 女性なら誰にでも(実は男性にも)起きることだが、疾患と診断され、薬が処方されることが多い。
- 女性の性機能障害 ― 米国では43パーセントの女性が何らかの性機能障害を患っているとする報告が発表されている。だが、ヘンリー氏とモイニハン氏は、これらの報告にも“病気デマ”の疑いが濃厚だとして批判を投げかけている。
- コレステロール値や骨密度などのリスク指標 ― これらの検査値が正常範囲に収まっていないというだけで、高コレステロール症や骨粗しょう症と即座に診断され、薬が処方される傾向が高い。
ヘンリー氏とモイニハン氏の論文には、こう書かれている。「“病気デマ”は、従来の病気の範囲を拡大して新たな病気の概念を流布することにより、薬品や治療法の市場を拡大させていく手法である」
捏造された病気の概念を定着させる上で最も大きな役割を果たしているのは、製薬会社の資金提供で行なわれる健康意識向上キャンペーンだという。そして、この手のキャンペーンは、病気の予防や健康の維持に関して人々に情報や知識を与えることよりも、医薬品を売り込むことを狙いとしていることの方が多いのだ、と。
ヘンリー氏とモイニハン氏は、医師、患者、および各種支援団体に対し、このような製薬業界のマーケティングの術中にはまらないように注意を呼びかけている。さらに、新たな病気が取り沙汰されたときには、実際にそのような病状が存在するかどうかを精査する必要があるとしている。
「健康維持の専門家や健康推進団体が自己の利益追求よりも何よりも、患者の幸福を第一に考えているのは当然のことである。だが、そのような純粋な動機がしばしば製薬会社のマーケティングに悪用されている」
つまり、捏造された病気の概念が定着するプロセスには、いろんな立場の人たちが関わっている。その中には、患者のために良かれと信じている人たちも含まれているというわけである。
さて、当然のことながら、製薬業界からは反論が出ている。英国製薬業協会のリチャード・レイ氏によると、ヘンリー氏とモイニハン氏が槍玉に上げているのは主に米国の製薬業界であって、英国の場合は事情が大きく異なるという。
米国では、製薬会社がさまざまな手段で医薬品を売り込むことが許されているが、英国では製薬会社の広告活動がはるかに厳しく規制されている。よって、自分たち英国の製薬業界には該当しない話だ。というのがリチャード・レイ氏の主張。
さらにレイ氏は、こう付け加えている。「製薬業界が病気を発明しているという表現は、いかがなものかと思います。病気かどうかを決めるのは、製薬会社ではなく現場の医師の仕事です。製薬会社が介入できない部分の話ですよ」
さて、当ブログでは、メディカル系の話を取り上げることが多い。だが筆者は、病院がそんなに好きではない。病院は、ひょっとして病気を治す場所ではなく、病気を作る場所なのではないかと思うこともあったりする。常日頃そんなふうに感じている筆者にとって、上記の説は、“さもありなん”と言ったところである。
病気でもないのに病気と診断されて、薬を処方されて・・・というのは、これまた相当に本末転倒な話にも見える。だが、今まで、どの病院にかかって診てもらってもはっきりした診断が下りなかった患者にとって、新しい病気の概念は精神的な救いになることもあるだろう。
人は自分がかかえている不調や問題を明確な名前で分類してもらうと、ほっとすることがある。心理テストが流行ったりするのも、その辺に理由があるだろう。
自分の不調は、こういう病気にかかっていたからなんだ―と納得した患者は、ありがたく薬の投与を受ける。
新しい概念を生み出すことで需要を創出するというアプローチ自体は、現代経済の至るところに遍在している。金融業界やソフトウェア業界など、まさにそのモデルの上に成り立ってきた感が強い。
製薬会社の“病気デマ”を本末転倒と決め付けてしまうのは、現代経済社会全体を本末転倒と決め付けるのに等しいかもしれない。それでも、本末転倒な要素があることは否定できない。産業繁栄のためには、本末転倒さが欠かせないとも言えるだろう。
本末転倒度6 | ■■■■■■□□□□ |
【付記】
結果と原因が入れ替わって本末転倒になっていようがいるまいが、オポチュニティ(商機会)が創出されれば産業は潤う。コンピュータ・ウィルスやサイバー犯罪にしても、ソフトウェア会社に相当なオポチュニティをもたらしている。“病気デマ”もオポチュニティを創出していることに違いはないだろう。ただし、患者が不適切な投薬を受けるリスクもあるわけで、上記の研究者たちはそれを懸念しているようだ。
注:“本末転倒”という言葉は、『大辞林』(三省堂)では「根本的と枝葉の事とを取り違える事」と定義されている。しかし、実際に現代日本で用いられている“本末転倒”は、多くの場合、「主客が入れ替わってしまうこと(=主客転倒)」や「(相反する2つのものが)本来と逆の立場になること」を意味している。当ブログでは、この意味で“本末転倒”を用いている。
■ Source: http://news.bbc.co.uk/1/hi/health/4898488.stm
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この記事へのコメント
1. Posted by ねこ 2006年04月14日 19:59
はじめまして。日本人は薬大好きだし(他国もかな?)そんなに飲んでお腹膨れませんか?って言うほど、薬を飲んでる人もいる。処方すれば、お金になる医者が、やたらめったら、処方するのも問題だし、製薬会社と病院との癒着も問題だと思う。どっちにしろ、私は製薬会社の人間があまり好きではないです。
5. Posted by coco 2006年06月19日 16:18
1年ほど前だったでしょうか、爪水虫の治療を勧める宣伝を新聞やテレビで大々的にやってましたよね。
そっくりの症状を経験したことがある私は、あれを見てあっけにとられていました。
爪水虫って、足の小指の爪が異様に厚く形悪くなっただけで痛くも痒くもなし。放っておいてもなんの支障もなかったです。
ペディキュアはちょっと塗りにくかったけど、1年ほどで勝手に治ったし、家族に伝染ることもありませんでした。
でも、CMでは「すぐ病院へ。家族に迷惑がかかります。娘さんにも嫌われます。」っていうノリ。
他の病気もみんなこういうノリで稼いでいたのか…?
そう思って以来、医者や製薬会社の言うことはまず疑ってかかるようになりましたよ。
そっくりの症状を経験したことがある私は、あれを見てあっけにとられていました。
爪水虫って、足の小指の爪が異様に厚く形悪くなっただけで痛くも痒くもなし。放っておいてもなんの支障もなかったです。
ペディキュアはちょっと塗りにくかったけど、1年ほどで勝手に治ったし、家族に伝染ることもありませんでした。
でも、CMでは「すぐ病院へ。家族に迷惑がかかります。娘さんにも嫌われます。」っていうノリ。
他の病気もみんなこういうノリで稼いでいたのか…?
そう思って以来、医者や製薬会社の言うことはまず疑ってかかるようになりましたよ。
6. Posted by 2007年01月22日 01:12

基本的にマスコミの報道はこのパターンが当てはまります。鳥インフルエンザは鳥を扱う人間には感染しやすいが食肉などによる感染率は皆無、BSEは潜伏長期で同じく食肉による感染の前例はほとんど無し。
駄目歌も韓流も流行も病気も事件もすべて捏造。
かつては農家などでよく鳥風邪が流行ったが騒がれなかったらしい。
マクドナルドのオーストラリア牛はBSE検査なし。
マスコミは畜産業者&視聴者に恨みでもあるのだろうか?最も初期の新聞は殺人事件をさらし者にする低俗なものらしいが。
7. Posted by 病気 2007年02月24日 07:48
私も医者や製薬会社の言うことは信用していません!!
自分の身は自分で守りましょう!!!
自分の身は自分で守りましょう!!!
8. Posted by 薬高過ぎ! 2007年02月26日 17:20
病気デマの代わりに病気商人なんてのどうでしょう?
武器商人みたいじゃないですか?
武器商人みたいじゃないですか?