クラウドソーシング「ランサーズ」 なんでも評点:英語検定のスコアが高ければそれだけでいいのか?

2022年10月17日

英語検定のスコアが高ければそれだけでいいのか?


この話題は、いろんな業種に当てはまりそうに見える。英語検定が高得点なら営業力だって優れているのか? だが、ここでは筆者の庭(であった)翻訳業界の話。

産業翻訳の品質は、翻訳会社がトライアル問題に正しく回答した者だけを採用し、毎回の納品物を厳しく検査することによって保証されてきた。しかし、AI翻訳の普及が多くの翻訳会社の力を奪い、最近ではフリーランスを「クラウド(を意味するcloudではなく、群衆を意味するcrowd)」の名で呼ぶ「フリーランスマッチング」サイトが大流行。

こうして翻訳会社がバイパスされると、誰も翻訳者のスキルを評価する方法論を持たないという現実。TOEICやTOEFLなどの英語検定のスコアだけを頼りにする無謀さが横行している。私は、1980年代のいつかTOEICを受験したら800点台だったような朧げな記憶がある。

だが80年代はPCがまだ普及していなかった。電子記録がなく、都内で引っ越しを繰り返した学生時代、紙でもらった成績表をとっくに紛失している。第一、90年代から翻訳でお金をもらうようになって、TOEICやTOEFLはおろか、英検でさえクライアントや翻訳会社から成績を聞かれたことは一度もない。1977年に始まったばかりのTOEICが翻訳に関係あるとは夢にも思わなかったから、TOEICは受けてないと公言してきた。このブログにもそう書いた。紙の成績書を紛失した以上、スコアを持っていないのと同じだし、TOEFLが「葵の紋所」みたいに大事なものだと思ったことがなかったのだから当然だと…。(80年代にTOEICを受けたが成績書を紛失した人は、私以外にもおられるだろう)。

【参考】TOEIC/TOEFLに関するQUORA情報

しかし、フリーランスマッチングサイトで求人に翻訳応募すると、「経歴は最高なのだが」と最終的に落とされることが増えて来た。彼らはTOEICのスコアを求めている。TOEICが高得点であれば、翻訳者として優秀であるに決まっているからだ。このロジックには、大きな錯覚がある。日本語と英語の翻訳には、英語力だけでは足りないからだ。英語のネイティブスピーカーは自ずと優れた翻訳者であると言っているのと同じだ。

とは言え、ここで言う「TOEICスコア保持者」は日本人もしくは日本語ネイティブネイティブに限定されるわけなので、日本語は普通に使えるはずだ。だが翻訳には、対象分野の深い知識が要求される。フリーランスマッチングの求人を見ていると、この点に最大の間違いが生じているようだ。

TOEICが高スコアなら法律の知識も弁護士並みなのか? そうでなくても、医療の知識やITの知識もプロフェッショナル級なのか? IT関連の翻訳に応募すると、TOEICスコア保持者に仕事が回ったらしいことが多く、たまにギブアップされた原文が私に回ってくる。TOEIC 900点だろうと、ITが苦手な人にITの翻訳はおろか、母国語文を整理することさえ苦行のはずだ。だが、私は90年代半ばにWindowsバブルが起きてから20年以上、頭文字MやHのITジャイアントから翻訳を受注してきたプロフェッショナルだ。IT企業の翻訳と言っても、テクニカルだけとは限らず、米国企業の常として膨大な量のマーケティング資料が付随する。この点も勘違いされていることが多い。ITと言っても、技術系だけとは限らない。もっと「文系」な裾野も広い。

だが、フリーランスマッチングサイトの発注者(多くはITベンダーそのものではなく、広告業などを通じてベンダーとコンタクトのある外部企業)は、IT翻訳者を選定するときに、「英語力=翻訳力」という大いなる勘違いに嵌っている。そしてもう一つの疑問。世の中には医師や弁護士などの資格を詐称する者が後を絶たない。しかもすぐには発覚せず、半年とか1年とか継続して詐称勤務し、報酬をたんまりもらってから発覚する例が多い。これらの国家資格でもこの有様だ。TOEICや英検などの検定結果の詐称はもっと容易ではないの? 翻訳者のスキルを測る物差しとして、検定結果に依存するのはもうやめた方がいい。

資格って持っていなくて履歴書書くとバレるものですか?

実際、産業翻訳では、英検1級ですら葵の紋所にならなかった。翻訳会社各社が厳しいトライアル問題を志望者に解かせるシステムは相当に優秀だった。そのシステムが崩壊した今、翻訳の品質は瓦解の寸前だ。

本稿では、あえて英訳と和訳を明確に区別しなかったが、上記は和訳の場合に該当度が高いだろう。訳文の質を発注者がチェックしにくい(チェックする能力を持たないことが多い)英訳は、もっと厄介だとわかってきた。それこそ、検定結果がすべての世界になる。

AI翻訳でエラーがあっても、日英翻訳は見過ごされることが多い(多くの場合は、最終使用者以外は誰も訳文を見ていない)。フリーランスマッチングサイトを見ていると、英訳の件数が爆発的に増えている。幸い、そのほとんどはYouTube映像のシナリオである。娯楽系なので、人命がかかわることはない。

YouTube映像の翻訳は、運営者自身が求人していることが多いのだが、英訳料金があまりにも安い。海外で英語スピーカーが視聴する映像なのに、運営者が英語の品質をあまりケアしていない。でも、1年とか長いスパンを置いてフィードバックがあるはずだ。競争が熾烈になるにつれて、いつまでも甘えが許されると思わない方がいい。私も最近、そのコンセプトに魅了されたチャンネルの仕事をお試しで受けたのだが、英訳を大事にしない姿勢に失望させられた。検定結果の高い相手に任せていたら自動的に安価で「良い翻訳」が出来上がってくると信じているらしかった。

以上、産業翻訳において輝かしい実績を持ちながら(持っていると妄想しながら)英語検定資格を(紛失したのだが)保有していないオッサンが愚痴ている駄文です。そう言えば、このオッサン、次のような記事も某所に寄稿しています。

誰が品質の責任を負うのか?



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