なんでも評点:没落記(4)

2022年06月19日

没落記(4)


私はフリーランス翻訳者という定職に就きながら、実は、麻雀打ちだった時代が長い。早稲田の学生だったころに、仲間とのかったるい麻雀に嫌気がさしてフリー雀荘へのデビューを果たした。しかも、生まれて初めて入店したのが、西武新宿線野方駅前にあった頭文字Fの雀荘。ヤーさんが我が物顔で出入りしているマナーのへったくれもない危険な雀荘だった。レートはさほど高くなかったが、イカサマが横行。まあ、いたいけない大阪出身の貧乏学生が無法地帯でもまれて成長した。
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あの店が奇しくも修行の場になったことは、数年後に訪れるプロ入りのチャンスを消すことになる。大学5年時に(前年度の団体戦に引き続き2年連続で)出場した全国学生選手権個人戦で決勝に残り、まだヘアヌードのへの字も聞かれなかった竹書房本社最上階の麻雀ルームで、阿佐田哲也(色川武大)氏に観戦されながら奮闘するも、前日、当時最高位プロだった大沢健二氏と朝まで飲んでへろへろの私は頑張ったけど3位が精いっぱいだった。決勝戦で同卓だった 忍田幸夫氏は現在プロ雀士として活躍中らしい。私は、飲み友達だった大沢氏のつてで最高位戦のプロ試験を受ける話があったのだが、「大槻はマナー悪すぎる!」と却下されてオワタ。

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野方のFでイカサマ師やヤーさんにもまれた私のマナーは最悪だったと今でも胸を張って言える。実際、学生選手権でも、いったん切った牌を指で隠して打牌を撤回し、文句言われると舐めとんのか!と逆上するなど傍若無人の極致だった。あの当時は、多少マナーが悪くても説得力と迫力があると許された。麻雀界では、映画監督の長谷川和彦氏の傍若無人さが知られていた。わたしも実は彼を手本にしていた。悪い見本である。しかし、私は当時人気があった悪役レスラーのブルーザー・ブロディに似ているとされ、いつの間にか「ブロディ」が通り名になった。

ま、あのころはそんなマナーの悪い奴でも出入り禁止にはならなかったが、時代の移り変わりとともに、私もマナーを学ぶ。新宿の東南荘で謎の品格と威厳を持つ雀士に出会う。店の人が彼には平身低頭。彼はゲームの展開を読み、あの二枚目過ぎる声と口調で語りだす。桜井章一という元裏プロであることを知る。また、渋谷界隈で小島武夫氏に出会い、足りない負け分を払ってもらうなど世話になる。

東京各地の雀荘でアウトローだけでなくアウトローあがりでも今は立派な人物にもまれ、南アフリカで2年ほど暮らし、ヨハネスブルグで現地に居ついたアウトローな日本人と卓を囲むなどして帰国し、翻訳者という定職に就いて30代に入ったころは、マナーの良い平凡な打ち手が出来上がっていた。40代に入ってからフリー雀荘を出禁になったとは一度もない。いや、実は昨年、事実上の出禁を経験している。それがこの文の本題だ!

その雀荘では、大企業がスポンサーに付き 雀士が正当なファイトマネーをもらえるMリーグを模したリーグ戦を開催しており、2021年の夏ごろから参加を始めた。時期は、コロナ禍たけなわ。コロナ禍は、ある意味、わが国のコンプライアンス信仰の集大成であったかもしれない。

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ノーレートの模擬Mリーグでは、当然のことながら、トップの座に就いた。しかし、ある日、私が何度も咳払いをしていると、最高位戦Cリーグプロでもある某スタッフから意味不明な注意を受けた。要は咳払いを止めてくれと言っているようだったが、マスクをせずに咳込んでいるわけではなく、喉が調子悪いので咳払いを繰り返していただけだ。咳払いを止めろとは、どういう意味か? 飛沫をまき散らす咳をしているわけではないのだから誰にも迷惑をかけていない。だが、そのスタッフの口ぶりによると、まだ咳払いを続けるようだと、「体調の悪い人に退出を命じる」権利を行使するぞ―と宣告しているように聞こえた。

しかし、咳払いは喉の調子が悪いだけであり、私は気管支喘息の持病がある。彼の真の目的は、素人のはずなのに独走態勢に入っている私に対して、Cリーグプロの彼がマウントを取ることにあると思われた。まんまと彼の挑発に踊らされてしまった私が馬鹿だと思う。そのときから雀荘スタッフと私の関係が急激に悪化したと思われる。

秋に入ったある日、正社員は自分と店長だけだと自己紹介してくる女性スタッフに相談があると持ち掛けられる。「お店の他のお客さんから、あなたにクレームが付いている。一緒に打ちたくないと言う人が大勢いる」と意外な言葉に唖然。私は、他の打ち手と個人的な会話をを一切交わしていないし、何のリアクションもしていない。他の客のせいにするなよ、あんたら店側スタッフが私を嫌いなだけだろう!と心の中で突っ込みながら、ボケたふりをして、じゃあ参加やめます――と宣言して、雀荘を去った。一応、物書きの端くれなので、どこかでネタにさせていただきますけどね、と言い残して。一年近く経って、ここでネタにさせてもらったが。

その雀荘、客はマナー良くというコンプライアンス信仰から、おかしな道にそれている。スタッフとして御しにくい相手がいて、他の客が彼を嫌っていると公言するのはいかがなものか? 他の参加者がスタッフと談話する場も機会もないのは明らかだったし、客に責任をかぶせるのはフェアじゃない。私が「客」の立場なら不愉快極まりない。

コンプライアンスは実力者を排斥する手段としても有効な場合がある。たとえば、プロ野球の世界など、60年代や70年代にコンプライアンス厨が元気なら排斥されていた名選手が山ほどいたのではないか?プロレスなら言わずもがなだろう。後に名監督となった落〇さんなんか、現役時代はくそ生意気過ぎたから排斥されていただろう。プロレス界は、その手の問題人物の宝庫。私の分身ブルーザー・ブロディは、コンプライアンス厨の力を借りなくても、同僚レスラーに刺殺されちまったが。

上記の雀荘については、本来の雀力など関係なく、コンプライアンス度で勝負する本末転倒の世界。あほくさ。

ま、これはあくあで娯楽の世界の話。私の本業(産業翻訳)の世界でも、コンプライアンス信仰が猛威を振るっている。おかしなことに、AI翻訳は今のところ、知的所有権絡みの分野以外ではコンプライアンス違反とされていない。産業翻訳界をコンプライアンス信仰が支配し始めたのは、わりと最近のこと。私が退院したころには、かなり進行していた。安いレート、このタイトな納期、こんな仕事できません! と我がままを通せていたのは、つい5年前。


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(評)本末転倒度 | 没落記

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