2014年02月11日

【再】女にのみ男を選ぶことができ、男は女からの求婚を絶対に拒否できないという愛の掟がある島


欧米ではバレンタインデーに男女どちらが贈り物をしてもよいのに対し、日本では「バレンタインデーとは、女性から男性に愛の告白をしてもよい日」であるとローカルに定義づけられている。本命の男性に“本気チョコ”を贈った女性が必ずしも報われるとは限らない。もし“本気チョコ”を贈られた男性が女性の愛を拒んではいけないシステムだったら、とんでもないことになりそうだ。しかし、世界は広い。女性から愛の告白を受けた男性が、それを絶対に拒んではならない島がある。
アフリカ西部のギニアビサウ共和国は、セネガルとギニアに挟まれた本土のほか、沖合いに50もの島からなる群島を擁している。その中に、オランゴという名の人口2000人ほどの島がある。この島で古くから受け継がれてきた求婚のしきたりは、同じ群島の中はもとより、世界のどこを探しても類を見ないものである。本稿では、APの記者によるレポートをもとにして、整理と補足を加えながら、この風習について紹介したい。

この島のしきたりでは、女性にのみ愛の主導権が与えられている。男性はあくまで受身である。それも生半可な受身ではない。たとえ、どの女性に愛を告白されても拒むことはできず、その女性と結婚しなければならないのである。簡単にまとめると、次のようになる。

  • 男性は女性を選んではいけない。男性から女性に求愛してはならない。

  • 女性にのみ自分の結婚相手を選ぶ権利がある。

  • 男性は女性に告白されたら、絶対に拒まず、その愛を受け入れ結婚しなければならない。


古来からの風習であるがゆえ、この“女性からの一方的かつ有無を言わせぬ求婚”は儀式的な手順で行なわれる。たとえば、現在65歳のガルバジュ・ホセ・ナナンゲさんが女性に見初められて求婚されたのは、51年も前、彼がまだ14歳になったばかりのときだった。弱冠14歳だったが、儀式の意味を十分に理解していた。そして、自分に拒否するという選択肢がないことをも。

その日、彼は、ある少女に藁葺き屋根の小屋に誘い入れられた。彼は心臓の高鳴りを抑えることができなかった。香草の香りがする皿が彼の前に出された。古来からのレシピに従って魚を蒸した後、レッドパームオイルに漬け込んでマリネにしたものだった。彼は皿を取り上げて、口に運んだ。

その料理を一口でも食べると、彼は少女と結婚することになる。だが、料理を食べずに拒むことは許されない。誰かに見初められて、この儀式に引き入れられたら、その相手と絶対に結婚しなければならないしきたりなのだ。もし拒否したら、自分の家の名誉を汚すことになる。

ナナンゲさんは、そのときのことをこう回想している。「それまで、彼女のことを別に何とも思っていませんでした。でも、料理を一口食べた瞬間、全身を稲妻が駆け抜けたかのような衝撃を覚えました。私が欲する女性は彼女しかいないのだと悟りました」

彼はこう説明する。「愛が最初に生まれるのは、女性の心の中です。女性の心の中に愛が生まれて初めて、その愛が男性の心の中に飛び込んでいくのです

女性がこの求婚の儀式を成就するまでに、少なくとも4ヶ月の準備期間がかかる。女性は、真っ白な砂が輝く島の浜辺に向かい、愛の棲家の柱となる流木を拾い集める。黄金色の枯れ草を刈って来て、藁葺き屋根を作る。ピンク色の泥からレンガを作る。これらの作業は、すべて女性が自分だけで行う。

そして愛の棲家が完成したら、自分が見初めた男子をその中に誘い入れ、伝統的なレシピで作った魚料理を食べさせる。こうして、結婚が成立する。

このように女性が家を作ってきたのは、母権文化がオランゴ島を支配してきたことを意味している。しかし、この群島の文化に関する本を著したフランス国籍の人類学者クリスティーヌ・アンリ氏によると、女性にしか結婚相手の選択権がなく、なおかつ男性の側に拒否権がない求婚方式は、世界各地のどの母権文化にも類を見ないという。

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ギニアビサウ共和国の64キロ沖合いのオランゴ島だけが群島の中にあって独自の文化を維持してきたのは、島を取り巻く環境条件によるところが大きい。危険な潮流、狭い海峡が長きにわたって、この島を外部から隔離してきたのである。しかしながら、この島にも、近代化・西洋化の波が押し寄せている。

オランゴ島の若い男性たちは、オランゴ島よりも開発の進んだ他の島で、観光ホテルのポーターなどの職を見つけるようになった。また、オランゴ島に豊かに植生するヤシの木からパームオイルを採取し、本土に売りに行く者も増えた。

そんな彼らは、島のしきたりと相容れない求愛様式を覚えて島に戻ってくる。だから、オランゴ島の伝統を重んじる年配者たちは心配でたまらない。彼ら/彼女らにすれば、男があけっぴろげに女性にプロポーズするのは危なっかしいことに見えてしようがない。

当年90歳のセザール・オクラネさんは、こうこぼしている。「今では世界の天地がひっくり返ってしまいました。昔のように男が女を待ち続けるのではなく、男が女に迫るようになったのですから」

「(男が女を選ぶ場合に比べて)女が男が選んだ方が、後からその判断が揺らぐことがずっと少ないのです。昔は、めったに離婚なんてなかった。でも、男が女を選ぶようになって、離婚も珍しいことではなくなりました」

正確な数は不明だが、男子が女子からの求婚を辛抱強く待ち続けていた時代に比べて、離婚の件数が大幅に増えているのは島民誰しもが認めるところである。

また、かつて女性が手作りで建てて来たオランゴ島の民家も、近年ではコンクリート製の家に取って代わられた。家を建てるのは、島の女性ではなく職人の仕事となった。

霊界との交信役としては、今でも女性の祭司が影響力を持っているが、島に宣教師たちがやって来て教会を建て出して以来、彼女らの影響力も衰退の一途にある。

たとえば、19歳の少女マリーザ・デピーナさんは両親と暮らしながら、プロテスタントの教会に通っている。伝統的な藁のスカートではなく、カプリ・パンツにスパンコールの付いたサンダルといういでたちである。「私は、白いドレスとベールを身にまとって、教会で結婚式を挙げるつもりよ」と彼女は言う。花嫁姿の自分を夢見るようにポーズを取りながら。

マリーザさんは、教会で「愛は男性の側から始まる」と教えられた。だから彼女は、男性からアプローチがあるまで待ち続けるつもりだという。しかし、両親は納得せず、彼女にがみがみ言うらしい。

マリーザさんの叔母に当たるエデリア・ノーロさんもマリーザさんと同様に、西洋式の服をまとい、教会にも通っている。だが、彼女は求愛に関しては島の伝統に従うつもりでいる。

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オランゴ島独自の文化が忘れ去られようとしている中にあって、一部には西洋式求愛に対する根強い抵抗感が残っている。実際、西洋式に男性から女性にアプローチしても実らず、後で女性が結局、島の伝統に男性を誘い入れるケースも多いという。

たとえば、当年23歳のラウリンド・ガルヴァーロさんは、13歳のときに好きな女の子が出来た。その当時から既に彼はホテルで働いていて、ジーンズを履いていたし、携帯電話さえ持っていた。だから、自分は現代風の男なのだと自認していた。島の伝統なんて自分には関係ないとばかりに、彼はその女の子に積極的にアプローチし、結婚してくれとプロポーズした。ところが、彼女は手を左右に振り、彼の求愛を頑として拒否。ラウリンドさんは失意の奈落に落ちた。

だが、6年もの歳月が過ぎたある日、思いがけないことが起きる。誰かが彼の家のドアをノックした。ドアを開けると、一度は彼の申し入れを拒否したあの彼女が立っていた。彼女は控えめに微笑んでいた。彼女の手には、獲れたての魚の乗ったプレートが携えられていた。

2人がその後、伝統的な儀式に則って夫婦になったことは言うまでもない。共に19歳だった。

ラウリンドさんは、今でもサンドブラスト仕上げを施したジーンズ、Adidasのロゴの入ったビーチサンダルといった西洋風のいでたちだが、自分を西洋風な男だとは思っていない。自分もまた、オランゴ島の母権文化の中の一員なのだと感じている。

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オランゴ島のしきたりのうち、「男性が女性からの求婚を決して拒否できない」という部分に関しては、不条理感を禁じえないだろう。だが、オランゴ島は現時点でも人口2000人という小さな世界である。このような小社会にあっては、実際のところ、男性が女性からの求愛を拒めないようにした方が、なにかとトラブルを回避できたのではないかと思う。

だが、「女性だけが相手を選ぶことができる」という部分は、ある意味、面倒を省いた合理的なシステムかもしれない。男性からアプローチしても女性に気に入ってもらえなければカップルが成立しないのは、日本でもたいがい同じだろう。結局のところ、最終的な決定権は女性の側に委ねられているケースが大半ではないかと。(ただし、世界には、関連記事の1番目と2番目の記事に示すような例もあるし、一夫多妻制を認めているイスラム圏などでは事情が違うと思うが)。

オランゴ島の男性は、女性からの求愛を我慢強く待ち続けるのが伝統だった。日本にも、これと似たように自分から決してアプローチしない(できない)男性は多そうだ。少子化の原因の一つになっているかもしれない。

だが、オランゴ島と日本とでは天と地ほどの違いがある。オランゴ島では、たいがい男なら辛抱強く待っているだけで必ず女性から求愛してもらえる。日本の場合は、そんなにラッキーなことはそうそう待っていない。

両極端さ9■■■■■■■■■□


オランゴ島のしきたりは、「必ず女性から求愛してもらえる」ことの代償として「男性が女性からの求婚を決して拒否できない」と定めているのかもしれない。非常に興味深い風習である。

ご注意: この記事は、今から7年前の2007年2月4日に当ブログに掲載した記事を再掲したものです。当ブログでは、スマートフォンユーザーを主に想定して、膨大なアーカイブの中から暇つぶしに良さそうな過去記事を「再放送」する試みを始めました。詳細は、こちらをご覧ください。





■ Source: Where women alone choose whom to wed (AP)

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