2009年05月25日
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絶対音感を持つ人がいれば羨望のまなざしを浴びる。我が子に絶対音感を身につけさせたがっている親は世の中に五万といる。だが、絶対音感を持つ人は1万人に1人しかいないと言われている。この「1万人に1人」という出現率は、あくまで欧米での調査結果に基づくものであって、アジアでの調査に基づくものではない。
■ 東アジア人は絶対音感に優れた遺伝子を持つのか?
カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)所属のダイアナ・ドイッチュ女史らが“Journal of the Acoustical Society of America”で発表した研究結果によると、地域を限定すれば、絶対音感を持つ人がざらにいる可能性がある。どの地域かというと、主に東アジアである。
2004年、ドイッチュ女史が北京の中国音楽学院で絶対音感を持つ学生の割合を調査したところ(調査対象者は全員が北京官話を話す)、ニューヨークのイーストマン・スクール・オブ・ミュージックでの調査結果を9倍も上回っていた。1万人に1人などではなく、およそ千人に1人の割合で絶対音感者が存在することになる。中国音楽学院で調査の対象となった学生は、全員が“東アジア人”だった(単に“中国人”としていないのは漢民族とは限らず、中国国内の少数民族や、日本など海外からの留学生も含まれていたということを意味すると思われる)。
ということは、東アジア人の絶対音感者の出現率は欧米人の9倍も高いということになる。これは、東アジア人が絶対音感に優れた遺伝子を持っているためなのか? いや、ドイッチュ女史はほかに要因があると考えた。言語である。
■ 実は遺伝とは無関係で言葉の抑揚と大いに関係が・・・
そのことを確認するために、ドイッチュ女史らは南カリフォルニア大学ソーントン音楽学校で203人の学生を対象に、あるテストを実施した。203人の学生たちに、3オクターブの音域にわたる36の楽音をランダムに聴かせ、その音名を解答用紙に記入するように指示した。さらに、被験者各自の音楽面、民族面、言語面でのバックグラウンドを解答用紙に記入させた。
言語面でのバックグラウンドには、東アジアの“声調言語”を流暢に話せるかどうかも記入させた。さて、ここで“声調言語”とは何かを説明しておくべきだろう。ローマ字表記などにしたときに同じ発音に見えても実は音の高低(抑揚)があり、その違いによって意味が変わるタイプの言語のことを“声調言語”と呼ぶ。
その最たるものが北京官話や広東語を含む中国語である。ベトナム語もこれに含まれる。・・・とここまで読んで、にやりとした中国語ネイティブの読者もいるはずだが、圧倒的大多数を占める日本語ネイティブの読者は落胆したかもしれない。(だが、後述するように日本語も“広義の声調言語”になら含まれる)。
さて、上記のテストの結果、以下のような相違点が浮かび上がった。
■ 絶対音感は“絶対的能力”にあらず
日本語は同音異義語がきわめて多く、抑揚で区別する。たとえば、何の文脈も与えずに「はし」という言葉をひらがなで書くだけでは、「橋」なののか「端」なのか「箸」なのか区別できない。それゆえ、日本語も“広義の声調言語”には含まれる(諸説あろうと思われるが)。日本語の中でも京阪方言(京都弁や大阪弁など)は声調言語の性質が他の方言より濃いと言われている(たとえば、Wikipedia日本語版の「声調」の項にも、このような記載がある)。そういえば、最近のロック系やJポップ系の歌手(特にシンガーソングライター)を見ていると、京阪神出身者が目立ってはいないだろうか。
ただし、絶対音感は優れた音楽家に必須の資質ではない。かの名指揮者カラヤンなど、あるとき楽団員が悪戯でベートーヴェンの第5交響曲の第一楽章を異なる調で演奏したのに(さすがに本番ではなくリハのときだが)、まったく気づかなかったというエピソードがある。これはカラヤンに絶対音感がなかったことを意味する。
上記の結果によれば、声調言語ではない言葉(たとえば英語)しか話さないグループに絶対音感を持つ人が含まれる比率は低いことになるわけだが、英語ネイティブの歌手の方がリズムに乗せた表現力に優れているように感じられたりもする。これまた、言語に原因があるのだろう。英語は音節構造が複雑で、シンコペーションなどのリズム変化に歌詞がのりやすい。(日本語を英語の音節構造風に発音して歌詞に乗せた第一人者が桑田佳祐だと思われるが)。
また、声調言語は東アジアだけに特有のものではなく、アフリカ大陸のリンガラ語もその1つに分類されている(ただし声調は2つだけ)。(日本語Wikipediaの「リンガラ語」の項には、その旨の記載が含まれていないようだが)。
ともあれ、言語能力は生まれた後で習得する能力である。上記のように言語と絶対音感に密接な関係があるのなら、絶対音感は天賦の才ではない、ということになる。ドイッチュ女史もその点を強調している。ま、絶対音感は一種の記憶力だという話もある。記憶力は磨くこともできる。
■ Reference: Tone Language Is Key To Perfect Pitch
【関連記事】
カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)所属のダイアナ・ドイッチュ女史らが“Journal of the Acoustical Society of America”で発表した研究結果によると、地域を限定すれば、絶対音感を持つ人がざらにいる可能性がある。どの地域かというと、主に東アジアである。
2004年、ドイッチュ女史が北京の中国音楽学院で絶対音感を持つ学生の割合を調査したところ(調査対象者は全員が北京官話を話す)、ニューヨークのイーストマン・スクール・オブ・ミュージックでの調査結果を9倍も上回っていた。1万人に1人などではなく、およそ千人に1人の割合で絶対音感者が存在することになる。中国音楽学院で調査の対象となった学生は、全員が“東アジア人”だった(単に“中国人”としていないのは漢民族とは限らず、中国国内の少数民族や、日本など海外からの留学生も含まれていたということを意味すると思われる)。
ということは、東アジア人の絶対音感者の出現率は欧米人の9倍も高いということになる。これは、東アジア人が絶対音感に優れた遺伝子を持っているためなのか? いや、ドイッチュ女史はほかに要因があると考えた。言語である。
■ 実は遺伝とは無関係で言葉の抑揚と大いに関係が・・・
そのことを確認するために、ドイッチュ女史らは南カリフォルニア大学ソーントン音楽学校で203人の学生を対象に、あるテストを実施した。203人の学生たちに、3オクターブの音域にわたる36の楽音をランダムに聴かせ、その音名を解答用紙に記入するように指示した。さらに、被験者各自の音楽面、民族面、言語面でのバックグラウンドを解答用紙に記入させた。
言語面でのバックグラウンドには、東アジアの“声調言語”を流暢に話せるかどうかも記入させた。さて、ここで“声調言語”とは何かを説明しておくべきだろう。ローマ字表記などにしたときに同じ発音に見えても実は音の高低(抑揚)があり、その違いによって意味が変わるタイプの言語のことを“声調言語”と呼ぶ。
その最たるものが北京官話や広東語を含む中国語である。ベトナム語もこれに含まれる。・・・とここまで読んで、にやりとした中国語ネイティブの読者もいるはずだが、圧倒的大多数を占める日本語ネイティブの読者は落胆したかもしれない。(だが、後述するように日本語も“広義の声調言語”になら含まれる)。
さて、上記のテストの結果、以下のような相違点が浮かび上がった。
- 東アジアの声調言語を流暢に話せる被験者は、楽音を聴いて音名を当てるテストでほぼ100%の正答率だった。
- 声調言語をなんとか話せる程度の被験者は、上記のグループよりも正答率が落ちた。
- 声調言語をまったく話せない被験者(白人と東アジア人の両方が含まれる)は、最も正答率が低かった。
■ 絶対音感は“絶対的能力”にあらず
日本語は同音異義語がきわめて多く、抑揚で区別する。たとえば、何の文脈も与えずに「はし」という言葉をひらがなで書くだけでは、「橋」なののか「端」なのか「箸」なのか区別できない。それゆえ、日本語も“広義の声調言語”には含まれる(諸説あろうと思われるが)。日本語の中でも京阪方言(京都弁や大阪弁など)は声調言語の性質が他の方言より濃いと言われている(たとえば、Wikipedia日本語版の「声調」の項にも、このような記載がある)。そういえば、最近のロック系やJポップ系の歌手(特にシンガーソングライター)を見ていると、京阪神出身者が目立ってはいないだろうか。
ただし、絶対音感は優れた音楽家に必須の資質ではない。かの名指揮者カラヤンなど、あるとき楽団員が悪戯でベートーヴェンの第5交響曲の第一楽章を異なる調で演奏したのに(さすがに本番ではなくリハのときだが)、まったく気づかなかったというエピソードがある。これはカラヤンに絶対音感がなかったことを意味する。
上記の結果によれば、声調言語ではない言葉(たとえば英語)しか話さないグループに絶対音感を持つ人が含まれる比率は低いことになるわけだが、英語ネイティブの歌手の方がリズムに乗せた表現力に優れているように感じられたりもする。これまた、言語に原因があるのだろう。英語は音節構造が複雑で、シンコペーションなどのリズム変化に歌詞がのりやすい。(日本語を英語の音節構造風に発音して歌詞に乗せた第一人者が桑田佳祐だと思われるが)。
また、声調言語は東アジアだけに特有のものではなく、アフリカ大陸のリンガラ語もその1つに分類されている(ただし声調は2つだけ)。(日本語Wikipediaの「リンガラ語」の項には、その旨の記載が含まれていないようだが)。
ともあれ、言語能力は生まれた後で習得する能力である。上記のように言語と絶対音感に密接な関係があるのなら、絶対音感は天賦の才ではない、ということになる。ドイッチュ女史もその点を強調している。ま、絶対音感は一種の記憶力だという話もある。記憶力は磨くこともできる。
■ Reference: Tone Language Is Key To Perfect Pitch
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この記事へのコメント
1. Posted by 匿名 2009年05月27日 02:45
こんにちは、いつも楽しく拝見しています。
絶対音感は天賦の才ではなく一種の記憶力との事ですが、それは本当にそうだと思います。
中には先天的に備えた人も居るのかも知れませんが…。
もう昔の事ですが、幼い頃毎日楽器を弾いて、また曲を聞いて音を当てたり、楽譜に書き取ったりする訓練をしていました。
同じような生活をしていた子達には、皆絶対音感が有りました。
当時は、絶対音感は有って当たり前という感覚で、音が分からないという状態が不思議なくらいでした。
ですから、絶対音感というものは才能ではないと思います。幼少時の訓練で身に付くのですから。
個人的な体験で恐縮ですが、ご参考までに。
絶対音感は天賦の才ではなく一種の記憶力との事ですが、それは本当にそうだと思います。
中には先天的に備えた人も居るのかも知れませんが…。
もう昔の事ですが、幼い頃毎日楽器を弾いて、また曲を聞いて音を当てたり、楽譜に書き取ったりする訓練をしていました。
同じような生活をしていた子達には、皆絶対音感が有りました。
当時は、絶対音感は有って当たり前という感覚で、音が分からないという状態が不思議なくらいでした。
ですから、絶対音感というものは才能ではないと思います。幼少時の訓練で身に付くのですから。
個人的な体験で恐縮ですが、ご参考までに。
2. Posted by なるっち 2009年05月27日 11:57
何をもって絶対音感とするのか、という問題もありますよね。
ここで挙げられている程度の簡単な音感なら僕も身につけていますが、それでも自分に絶対音感があるとは思えませんから…。
僕はせいぜい半音の半分(ミとファの間、シとドの間)程度しか分かりませんが、本格的な絶対音感のある人は、半音未満どころか数セントの差も判別できますしね。
逆に、日本よりも高い周波数で調律することが多い海外の楽団に所属して弦楽器奏者は非常に苦労する、という話も聞きます。
基準周波数を440Hzで演奏する癖がついていて、なかなか443Hzの楽団の演奏に合わせることができないんだそうで…。
ここで挙げられている程度の簡単な音感なら僕も身につけていますが、それでも自分に絶対音感があるとは思えませんから…。
僕はせいぜい半音の半分(ミとファの間、シとドの間)程度しか分かりませんが、本格的な絶対音感のある人は、半音未満どころか数セントの差も判別できますしね。
逆に、日本よりも高い周波数で調律することが多い海外の楽団に所属して弦楽器奏者は非常に苦労する、という話も聞きます。
基準周波数を440Hzで演奏する癖がついていて、なかなか443Hzの楽団の演奏に合わせることができないんだそうで…。
3. Posted by 2009年06月07日 18:37
関西人で標準語もしゃべることができる人は、(アクセントを意識的に切り替えるなどすることで)音感が鍛えられているらしい。
4. Posted by ^^ 2009年06月22日 10:37
絶対音感あるけどそんなに特別だったのか。
小さい頃から音楽やってるから当たり前だと思ってた。
小さい頃から音楽やってるから当たり前だと思ってた。
5. Posted by 閲覧者 2009年08月18日 18:09
音楽学院で調査したんなら、そりゃあ一般の10倍程度絶対音感持ちが居てもおかしくはないでしょう。
西洋の一万人に一人という結果が音楽学校で調べたものなのか、一般人からアトランダムに選んで弾き出したものなのか定かではありませんが、この結果をもって東洋と西洋とを短絡的に比較するのは早計と思いますね。
西洋の一万人に一人という結果が音楽学校で調べたものなのか、一般人からアトランダムに選んで弾き出したものなのか定かではありませんが、この結果をもって東洋と西洋とを短絡的に比較するのは早計と思いますね。
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