2009年04月24日

ネット用語の「炎上」は英語で何と表現するのか? ― “バーニング(Burning)”ではなく


最近(とりわけネットのあちこちを見ていると)、炎上の英語訳は“バーニング(Burning)”だと単純に考えている人が多いように見受けられる。もちろん“Burning”でも燃えていることに違いはない。しかし、「炎上」という日本語は、何かが炎を上げて燃えさかっているさまを表現するために使われる。“Burning”だと「炎」のイメージが湧きにくい。


ビル炎上中?



では、ネット用語ではなく物理的な意味での「炎上」をより的確に表現するとどうなるかというと、主に以下のような表現がある。


1)〜が炎上する


    go/get/turn/comeなどの動詞+ablaze

    burst into flames

2)〜を炎上させる


    set 〜 ablaze


さて、ネット用語の「炎上」は、ブログやサイトがまばゆい炎につつまれるさまを表現する言葉ではない。物理的な炎が上がるのではなく、コメント欄に激しい非難や誹謗中傷が寄せられることを指す。


さて、一般的な意味での炎上(物理的に炎につつまれた状態)を英語で表現するには上記のような表現があるわけだが、ブログやサイトの炎上の場合も同じような表現が使われるのだろうか。つまり、「私のブログが炎上する」の意味で“My blog turns ablaze”などの表現が使われるのだろうか。


Googleで検索してみると、ブログ炎上の意味では動詞の“flame”を使うとする記事が散見される。「ブログ炎上」という名詞句なら“blog flaming”で意味が通じるのだそうだ。


たとえば、小学館ランゲージワールドというサイトのこちらのコラムを読むと、


「ブログ炎上」の英訳語であるが、色々調べた結果、これは「最初に英語がありき」の新語で、英米ではblog flamingと言う(注3)。この訳語に問題はない。なお、下記の訳例は上記の訳語そのものではない。



などと説明されている。最近の筆者の仕事の半分くらいは日本語から英語への翻訳である。たまに、お客様から特定の英語表現(主に専門用語)を指定されることがあるが、怪しいと感じたときは、英語Webを検索してみることにしている。英語Webは専門的文献の宝庫でもあるので、どんなに不自然に感じられても、通用している言葉ならヒットする。ヒットしない場合は、通用しない可能性が非常に高い。


というわけで、上記のコラムにも、ちと怪しいものを感じたので(コラム執筆者の揚げ足取りをする意図は決してないのだが、こちらも一応専門家なので)、Googleで“blog flaming”を検索してみた。すると、予想どおり「炎上」の意味で使われているらしきものはほとんど見あたらない。


ここで、留意しなければならないのは、「ブログの炎上」はあくまで比喩的な表現だという点である。言語が変われば、比喩の対象も変わる。これは諺を見れば歴然としている。「隣の花は赤い」に相当する英語の諺は“The apples on the other side of the wall are sweetest”である。日本語で「隣の花」にたとえているものを英語では「向こう側のリンゴ」にたとえている。「赤い」を「甘い」にたとえている。


比喩の対象を日英両方で同じものにしようとするのは、往々にして英語として意味をなさない表現をしてしまう原因になる。「ブログの炎上」の場合も、英語圏では「めらめらと燃える」炎を連想しないようだ。


実は、「ブログ炎上」にもっとも近いニュアンスになりそうな英語表現として、“blog under fire”がある(「大炎上」なら“under heavy fire”)。たとえば、英語Web上で次のようなブログエントリを見つけた。


Dior's blog under fire


Dior has a blog, which, if you can read French, you might find interesting. What you might find even more interesting, however, is that the blog garnered over 220 comments in its first week... from only nine IP addresses.
(引用元:http://www.adjab.com/2006/03/08/diors-blog-under-fire/)



Dior(ディオール)のブログに最初の1週間で220のコメントが付いたが、発信元のIP アドレスは9つしかなかったという話である。日本ではこれくらいのコメントで“炎上”とは言わないだろうが、実際のところ、ブログが炎上しているときは同一人物がしつこくコメントしていることが多いので、「発信元のIP アドレスは9つだけ」というのは十分あり得る割合だろう。


日本語の「ブログ炎上」をずばり英語に訳すと何になる?という問いには、“blog under fire”が最も的確な回答になると思う。しかし、“blog under fire”にしても今のところ、そんなに広く使われている表現ではなさそうだ。


要するに英語圏では、今のところ、日本語の「ブログ炎上」のように、ブログに対する誹謗中傷コメントの殺到を表現する決まり文句が確立されていないように思われる。こういう場合は、かつての自動車産業、今のマンガ・アニメ文化がそうしてきたように、日本語の“炎上”をそのままローマ字で輸出するのが最も簡単。“Enjo”とすると英語の“Enjoy”のタイポ(打ち間違え)と思われがちである上、「援助」とも紛らわしいので、最後にhを付けて“Enjoh”とするのがよさそう。(検索してみたが、今のところまだ輸出されていないようだ)。


さて、当ブログにしては珍しく冒頭に写真を掲載したが、これは先日、筆者が手に入れたばかりのデジタル一眼で撮影したもの。ビル(あるいはマンションかも?)が炎上しているように見える。“炎上中?”のビルにズームインしたのが下の写真(まだ新しいカメラの使い方を十分に習得しておらず、へたくそな写真で申し訳ない)。


ビル炎上中?



やはり炎上しているように見える。だが煙は上がっていないし、大阪市でビルの上層階が炎上したというニュースも伝えられていない。ヒントを言えば、写真に写っているのはビルの西側の窓。そして、時刻は日没前。


【追記:flameに関して(4月24日16:45)】


コメント欄で「BLOG以前の昔の掲示板などで論争が起きたときに、フレーム(flame)と呼んでいました」というご指摘があったので追記しておく。


筆者の手元にある“The New HACKER'S DICTIONARY”(1991年版)のflameの項には以下のような記述がある(18年も前の本なので、ページが反っていて、まっすぐ撮影できなかった。あしからず)。





4つの定義が示されている。これによれば、flameとは、相手を侮辱したり立腹させたりする意図を持ってメールを送ることや、あまり興味深いとは思えない話題に関して絶え間なく話したり、熱狂的に話したり、明らかにばかげた態度で話すこと、あるいは特定の人物や集団に向け敵意をこめて、これらに該当する行為を行うことを意味する。そして、定義4にあるように、討論が不毛な論争に陥ったときは、議論を交わしている人たちに対して「君らのやっていることはフレーミングだ!」とか「フレーム行為はやめなよ!」と誰かが諭して、不毛な論争を終わらそうとする。


これらの論争がどこで行われていたかというと、主にUSENETなどのニュースグループや電子掲示板である。このflameの本来の意味は「炎」。当事者間で「炎」が上がり、燃え広がることもあるからflameなのだろう。で、この場合、炎(flame)を上げて燃えているのは、ニュースグループや掲示板ではなく、そこで不毛な論争などに息巻いている人たち自身である。


つまり、この意味でのflameの主体は、掲示板ではなく、発言の書き手自身なのだ。flameとは現象ではなく、行為自体を指す。一方、「ブログの炎上」という日本語では、ブログ自体が炎を上げている状態を意味する。


flameが日本語に訳されるときに「炎上」に変わったのかどうか・・・。筆者は否定的だ。その当時、日本国内にもNIFTY-Serveなどの電子会議室があったが、どこぞの会議室が「炎上中」などという表現はしていなかった。むしろ、カタカナ語の「フレーミング」という言葉の方がちらほら聞かれたように記憶している。






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この記事へのコメント

1. Posted by ksk   2009年04月24日 08:14
ご存知でしたらすみません。
BLOG以前の昔の掲示板などで論争が起きたときに、
フレーム(flame)と呼んでいました。

blog flameと同様に本当に英語圏から由来する単語なのかはわからないのですが、
このフレームからブログ炎上が由来するのではないかと思われます。
2. Posted by cocoa   2009年04月24日 08:42
4 IP9 米220 なら、日本じゃこの程度で炎上と言わないと云う様に、嵐と言うべきなんじゃないかと思います。炎上はもっと半端無い規模。

それにしても、嵐はどこに行っても嵐して、炎上は限定された一部が爆発的に荒れるので、素晴らしい比喩だと個人的に思ってます。
3. Posted by clydemender   2009年04月24日 11:57
いつも楽しく拝見してます。英語でプレゼンする時に和製英語だったり単語のイメージの違いで通じなかったりして歯がゆい思いをしているのを思い出しました。それはともかく面白い写真ですね、普通の炎上だと思いました。露光が長いんでしょうか。
4. Posted by orangeobject   2009年04月25日 08:17
heatではないですか?海外のプロレスニュースを読んでいたときに○○選手の行動が楽屋裏でheatを買っている(怒りを呼んでいる)という記述を読んだことがあります。英和辞書でもheatには怒り/興奮とありました。
5. Posted by parkmount   2009年04月28日 17:17
多分、

The story is causing stormy controversy.
Flaming controversy erupted on this issue.
The incidence created flaming issue.
That became hot debate.
Controversy was erupted with a vengeance.

なんて表現が使われるでしょうね。
6. Posted by リョウスケ   2009年06月01日 03:38
3 flameは、古くはネットニュース(メールクライアントを利用して、不特定多数の投稿が行われる掲示板のようなもの)時代から、「激しい論争」が起きている状態を指す単語として普通に使われていましたよ。

そのころまだ炎上という言葉はありませんでしたので、炎上はおそらくflameからの翻訳だと解釈していました。

ネットニュースは10年ぐらい前はよく使ってましたが、最近は使いませんね。多くのプロバイダがニュースサーバの提供をやめてしまいましたし。
今、ネットニュースと聞いて上記のシステムを思い浮かべる人は少ないんでしょうね。
7. Posted by hidezumi   2010年04月26日 13:31
3 1997年頃、WebTVというインターネット接続機器のローカライズを担当してました。文章の中にFlamingという項目があり、ネットでは顔が見えないので、怒ったユーザーが議論を白熱させることがあります。これを避けるためには冷静な議論を心がけましょうみたいな記述がありました。

日本語で炎上という言葉は聞いた事がありませんでしたから、多分英語のFlamingを誰かが炎上と訳したのではないかと思います。英語のフレーミングに対する記述はコチラです。

http://en.wikipedia.org/wiki/Flaming_(Internet)

日本語の炎上が一方的に燃え上がることをさすことが多いのに対して、英語のフレーミングは「敵対的なインタラクション」と定義されてます。文化の違いですね。
8. Posted by Nike Shox   2012年05月26日 13:47
のに、どうして突如として絵が下手になったのだろうか」といつも不思議に思っていた。
xc
9. Posted by モンブラン 万年筆   2014年02月17日 12:44
ちなみにペン先の太さは、細い順番から EF → F → M → B → BB の順番になります。
モンブラン 万年筆 http://www.auntpearliesue.com/montblanc.html

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