2009年02月11日
巨象が突然倒れた。倒れたのは、南アのクルーガー国立公園のモパニ・レスト・キャンプ周辺で暮らしていた雄象アレキサンダー。同公園でも最大級の巨象だった。まもなく公園レンジャーたちがやって来てアレキサンダーの死亡を確認した。
国立公園で保護されている動物が突然死したわけだから、死因を調べる必要があった(毒殺などだと大問題)。しかし、クルーガー国立公園で最大級のオスのアフリカ象である。体重は6トンをゆうに超えているはずだ。死体をどこかに運んで解剖するなど不可能だった。
そこで、レンジャーたちはアレキサンダーをその場で解剖し、心臓と肺を摘出して検査に出した。死因としては心臓発作が最も疑われる。
アレキサンダーの亡骸はその場に放置しておかざるを得なかった。しかし、国立公園内とは言え、そこはまさに野生の王国。巨大な死体が転がっていれば、おのずと死肉を食らう獣や猛禽類たちがやって来る。
ハイエナやハゲワシたちがあっという間に群がってきた。・・・が、そこに一頭の雄象が現れるや、ハイエナやハゲワシを追い払う。その雄象はアレキサンダーのことをよく知っているようで、そこに倒れている友がすでに息絶えているという事実を飲み込めなかったらしい。
巨大な牙を操り、倒れ伏しているアレキサンダーの頭部の下側に入れ、持ち上げようとする。持ち上げたら目を覚ますと思い込んでいるかのようだった。約30分にもわたって何度も何度もアレキサンダーを起こそうとする。だがアレキサンダーは目を覚まさない。雄象の牙がアレキサンダーの目に刺さりそうになったこともあった。
その様子をここまで克明に記述できるのは、人間たちが車の中から目撃していたからだ。アレキサンダーが倒れた地点は、公園内のメイン道路からわずか20メートルの位置にあった。
目撃者の1人、ボランティア・レンジャーのスーザン・アンジェルコヴァクさんは言う。「友達にサヨナラを言うためだったのかもしれないし、それとも友達を生き返らそうとしていたのかもしれませんね」
「雄象は鼻でにおいを嗅いで、アレキサンダーの体に触れ続けていました。アレキサンダーを持ち上げることができないとわかると、彼の上に座ったり、おしっこをかけたりしていました。
「悲しくて涙が出ました。こんな光景を見たのは、これが初めてです。今でも心に浮かんできます。仲間のレンジャーたちと大声を出して泣きました」
約30分経ったころ、雄象は突然姿を消した。しかし、あきらめたわけではなかった。水を飲みに行っただけだったらしく、しばらくすると戻ってきて再び「蘇生」を試みた。だが、もちろんアレキサンダーは微動だにしない。
約15分ほど経つと、ようやくアレキサンダーが二度と起き上がれないことを悟ったようで、今度はアレキサンダーを起こそうとするのをあきらめ、代わりに自分の鼻をアレキサンダーの背骨に沿わせて、1分以上、ぴたりと動きを止めた。それは黙祷のようなものだったのかもしれない。そして、ゆっくりと離れていき、森の中に姿を消した。
その晩、キャンプでは女性観光客たちの間で、その感動的な光景のことが話題に上っていた。彼女らによれば、その場に居合わせた者は老若男女を問わず、全員が涙にむせんでいたという。
★ ★ ★
筆者は、ある一篇の詩を思い出した。1968年に41歳の若さでこの世を去った寡作の詩人、村上昭夫の「象」という詩である。
この詩は、『動物哀歌』
に収録されている。
アレキサンダーが倒れたのが夕刻だったかどうかはわからない。しかし、「落日のように倒れた」という表現がふさわしいほどの巨象である。そして、「前足から永遠に向かうようにたおれた」のかもしれない。
しかし、アレキサンダーが生きていた世界は、村上昭夫の心象世界ほど寂寥とした世界ではない。おそらく長い付き合いがあったのだと思われる雄象が現れて、彼を蘇らそうと何度も試みた。そしてその様子を見守っていた人間たちは、涙をこらえきれなかった。
象は知能の高い動物だ。もしかしたら「死」という概念が彼らの中にもおぼろげに存在するのかもしれない。死期を悟った象は、「落日のように倒れる」のにふさわしい場所に足を運んで、そこで息絶えるという話もある。
■ Source: Elephant's sad farewell to friend
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そこで、レンジャーたちはアレキサンダーをその場で解剖し、心臓と肺を摘出して検査に出した。死因としては心臓発作が最も疑われる。
アレキサンダーの亡骸はその場に放置しておかざるを得なかった。しかし、国立公園内とは言え、そこはまさに野生の王国。巨大な死体が転がっていれば、おのずと死肉を食らう獣や猛禽類たちがやって来る。
ハイエナやハゲワシたちがあっという間に群がってきた。・・・が、そこに一頭の雄象が現れるや、ハイエナやハゲワシを追い払う。その雄象はアレキサンダーのことをよく知っているようで、そこに倒れている友がすでに息絶えているという事実を飲み込めなかったらしい。
巨大な牙を操り、倒れ伏しているアレキサンダーの頭部の下側に入れ、持ち上げようとする。持ち上げたら目を覚ますと思い込んでいるかのようだった。約30分にもわたって何度も何度もアレキサンダーを起こそうとする。だがアレキサンダーは目を覚まさない。雄象の牙がアレキサンダーの目に刺さりそうになったこともあった。
その様子をここまで克明に記述できるのは、人間たちが車の中から目撃していたからだ。アレキサンダーが倒れた地点は、公園内のメイン道路からわずか20メートルの位置にあった。
目撃者の1人、ボランティア・レンジャーのスーザン・アンジェルコヴァクさんは言う。「友達にサヨナラを言うためだったのかもしれないし、それとも友達を生き返らそうとしていたのかもしれませんね」
「雄象は鼻でにおいを嗅いで、アレキサンダーの体に触れ続けていました。アレキサンダーを持ち上げることができないとわかると、彼の上に座ったり、おしっこをかけたりしていました。
「悲しくて涙が出ました。こんな光景を見たのは、これが初めてです。今でも心に浮かんできます。仲間のレンジャーたちと大声を出して泣きました」
約30分経ったころ、雄象は突然姿を消した。しかし、あきらめたわけではなかった。水を飲みに行っただけだったらしく、しばらくすると戻ってきて再び「蘇生」を試みた。だが、もちろんアレキサンダーは微動だにしない。
約15分ほど経つと、ようやくアレキサンダーが二度と起き上がれないことを悟ったようで、今度はアレキサンダーを起こそうとするのをあきらめ、代わりに自分の鼻をアレキサンダーの背骨に沿わせて、1分以上、ぴたりと動きを止めた。それは黙祷のようなものだったのかもしれない。そして、ゆっくりと離れていき、森の中に姿を消した。
その晩、キャンプでは女性観光客たちの間で、その感動的な光景のことが話題に上っていた。彼女らによれば、その場に居合わせた者は老若男女を問わず、全員が涙にむせんでいたという。
筆者は、ある一篇の詩を思い出した。1968年に41歳の若さでこの世を去った寡作の詩人、村上昭夫の「象」という詩である。
象
象が落日のようにたおれたという
その便りをくれた人もいなくなった
落日とありふれた陽が沈むことの
天と地ほどのへだたりのような
深い思いをのこして
それから私は何処でもひとり
ひとりのうすれ日の森林をのぼり
ひとりのひもじい荒野をさまよい
ひとりの夕闇の砂浜を歩き
ひとりの血の汗の夜をねむり
ひとりで恐ろしい死の世界へ入ってゆくよりほかはない
前足から永遠に向かうようにたおれたという
巨大な落日の象をもとめて
この詩は、『動物哀歌』
アレキサンダーが倒れたのが夕刻だったかどうかはわからない。しかし、「落日のように倒れた」という表現がふさわしいほどの巨象である。そして、「前足から永遠に向かうようにたおれた」のかもしれない。
しかし、アレキサンダーが生きていた世界は、村上昭夫の心象世界ほど寂寥とした世界ではない。おそらく長い付き合いがあったのだと思われる雄象が現れて、彼を蘇らそうと何度も試みた。そしてその様子を見守っていた人間たちは、涙をこらえきれなかった。
象は知能の高い動物だ。もしかしたら「死」という概念が彼らの中にもおぼろげに存在するのかもしれない。死期を悟った象は、「落日のように倒れる」のにふさわしい場所に足を運んで、そこで息絶えるという話もある。
■ Source: Elephant's sad farewell to friend
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1. 象は仲間の突然死を理解する? [ S.SASAKI [休日旅行人] ] 2009年04月17日 17:07
案外と・・・考えられるかも ハイエナたちを追い払い、 仲間の亡骸を牙で持ち上げて
この記事へのコメント
1. Posted by まめだぬき 2009年02月11日 16:53
象に限らず動物達のこういった話を聞くと胸がキュー…ってなります。
上に乗ったのは「重いだろう、起きろ」
おしっこかけたのは「嫌だろう、起きろ」っていう意味かなぁ。
上に乗ったのは「重いだろう、起きろ」
おしっこかけたのは「嫌だろう、起きろ」っていう意味かなぁ。
2. Posted by ポンキー 2009年02月13日 10:45
象は人間以外の動物で唯一死を理解できる動物みたいに聞いたことがあります。
3. Posted by あう 2009年02月15日 01:26
やっぱりなんでも評点はいいな
4. Posted by フィールド 2009年02月28日 03:19
いい記事書くと、だいたい更新は止まるよね。
5. Posted by タク 2009年03月20日 16:57

6. Posted by k 2010年05月14日 20:40
象の心象風景…