2008年06月10日
ニューヨーク州スケネクタディ市のスーパーマーケットの鮮魚部で働くスローン・カラフェロは、いつも同じいでたちで職場に現れた。バイク乗りだったせいもあるが、どんなに暑い日でも青いウィンドブレーカーにバックパックという姿でやって来る。そして、らせん綴じのノートを肌身離さず持っている。
仕事中に手を休めては、そのノートを開いて、なにやら文章を書き始める。同じ職場の誰一人として、そのノートに何が書かれているかを知っている者はいなかった。書き込まれている文字があまりにも細かすぎたせいもある。それに、普段からスローンの言動には奇異さが漂っていた。だから、同僚たちは彼のことにあまり深入りしない方が無難だと思っていた。
29歳のスローンは職場と同じスケネクタディ市のYMCA寮に住んでいたが、他の寮生たちとの付き合いを避けていた。言葉を交わすことさえ避けていた。親しい友人や親しい異性がいるふうもなく、ストイックにボクシング・ジムに通い続けていた。
そのジムの経営者ジェームズ・コマート氏は、スローンが以前住んでいたアパートの貸主でもあった。さすがに付き合いの長いコマート氏に対しては少しは心を許していたようで、「僕はもう何年も家族と話をしたことがないんですよ」などと漏らしたこともあった。
スローンは職場の同僚たちに、変な質問をぶつけることがあった。たとえば、CIA(中央情報局)に採用してもらうには、どうすればよいのかなどと訊いてくる。そして、数ヶ月前から、たびたび同じ質問を繰り返すようになっていた。
「死ぬとしたら、ビルから飛び降りるのと、飛行機からパラシュートなしでジャンプするのと、どっちがいいかなあ?」
同僚たちは、それを悪趣味な質問だと感じつつ、あまり深い意味があると思っていなかった。彼の言動におかしなところがあるのは今に始まったことでもなかったからだ。
ある日、スローンは同じくニューヨーク州のデュアネスバーグにあるスカイダイビング・クラブを訪れた。経営者兼パイロットのボブ・ローリングズ氏がスローンに応対すると、「学校の課題のために航空写真を撮りたいのでスカイダイバーたちと同乗させてもらえませんか?」と言う。
しかし、その日は、すべてのフライト予定が既に終わっていた。「来週ならOKだよ」とローリングズ氏は答えた。スローンのことを何一つ知らないローリングズ氏は、別に不審なものを感じなかった。
ローリングズ氏は、このビジネスを始めて40年近くになる。何百人ものスカイダイバーが彼の単発機からジャンプしてきた。スカイダイバーの友人が同乗して、機内から写真を撮るケースもよくあった。
そして、翌週、スローンが再びローリングズ氏のスカイダイビング・クラブに現れた。ちょうど3人のスカイダイバーを乗せて飛ぶところだったので、スローンもそのフライトに同乗することになった。3人のスカイダイバーの構成は、インストラクタ、生徒、ビデオ撮影者がそれぞれ1人ずつである。
スローンは、その3人とあまり積極的に言葉を交わそうとせず、静かに座っていた。ローリングズ氏の操縦するCessna 182が高度を上げる中、黙って窓から外を眺め、おもむろに写真を撮り始めた。
高度1万フィートに達し、いよいよスカイダイバーたちが大空に飛び出そうという段になっても、スローンはシートベルトを固く締めて座っていた。3人のスカイダイバーたちが機外に飛び出す様子を、スローンはおとなしく見守っていた。
ところが、ローリングズ氏が3人を眼下に見送ってドアを閉めた次の瞬間、スローンはシートベルトを外すと、座席から飛び出してドアのレバーに手をかけた。反対側の手にはカメラをしっかり握っていた。
再びドアが開いた。風圧がかかってドアが閉まりそうになったが、スローンは強引にドアを全開にする。ローリングズ氏がスローンを制止しようとするが、開口部からスローンが一気に外に飛び出す。
機内から航空写真を撮るだけという名目である。もちろん、パラシュートなど身に着けていない。あっという間に落下していくスローンの姿を茫然と見送るばかりのローリングズ氏。ただ、ローリングズ氏によれば、スローンは叫び声を上げることもなく、動揺した様子もなく静かに落下していったように見えたという。
何の減速手段も持たないスローンは、先にジャンプした3人をやがて追い越してしまう。そのとき、ビデオ撮影者は、スローンのカメラのフラッシュから何度も閃光が放たれるのを見た。スローンは、高度1万メートルからの死のダイブの最中、自らの姿を冷静に撮影し続けていたのである。
まもなく、スローンは地上の民家の屋根に激突してダイブを終えた。
本稿では、普段とは少し趣向を変え、なんとなく“短編小説風”の構成と表現を用いたが、この話はもちろん実話である。本件が起きたのは、6月8日(日曜日)のこと。
連邦航空局(FAA)は、スローンの死に関する調査を行う予定はなく、州警察に任せることになるとコメントしている。州警察では、本件に事件性はないと判断しており、自殺として扱うことになるが、現在も検証を続けている。
スローンが迫り来る死の中で撮影したセルフポートレイトの行方については明らかにされていない。
1万フィート(約3000メートル)の上空からパラシュートなしで飛び降りた彼が民家の屋根に落下するまでに経過した時間の長さは風や気圧などの条件にも影響されるはずだが、1分から3分くらいだろうか。その間、冷静に自らの姿を写し続けたその行為はいったい何を意味するのか。
スローンは周囲と積極的に交わろうとせず、周囲に理解されようともしないタイプの人物だったようだ。それでも、彼の中には揺るがぬ自己肯定があったと見る。自己肯定を貫くには、このような死を遂げることも1つの選択肢だったということか。そして、その死自体をも肯定するために、彼は絶命の瞬間まで自分の姿を写真に収め続けたのかもしれない。
■ Sources:
【関連記事】
29歳のスローンは職場と同じスケネクタディ市のYMCA寮に住んでいたが、他の寮生たちとの付き合いを避けていた。言葉を交わすことさえ避けていた。親しい友人や親しい異性がいるふうもなく、ストイックにボクシング・ジムに通い続けていた。
そのジムの経営者ジェームズ・コマート氏は、スローンが以前住んでいたアパートの貸主でもあった。さすがに付き合いの長いコマート氏に対しては少しは心を許していたようで、「僕はもう何年も家族と話をしたことがないんですよ」などと漏らしたこともあった。
スローンは職場の同僚たちに、変な質問をぶつけることがあった。たとえば、CIA(中央情報局)に採用してもらうには、どうすればよいのかなどと訊いてくる。そして、数ヶ月前から、たびたび同じ質問を繰り返すようになっていた。
「死ぬとしたら、ビルから飛び降りるのと、飛行機からパラシュートなしでジャンプするのと、どっちがいいかなあ?」
同僚たちは、それを悪趣味な質問だと感じつつ、あまり深い意味があると思っていなかった。彼の言動におかしなところがあるのは今に始まったことでもなかったからだ。
ある日、スローンは同じくニューヨーク州のデュアネスバーグにあるスカイダイビング・クラブを訪れた。経営者兼パイロットのボブ・ローリングズ氏がスローンに応対すると、「学校の課題のために航空写真を撮りたいのでスカイダイバーたちと同乗させてもらえませんか?」と言う。
しかし、その日は、すべてのフライト予定が既に終わっていた。「来週ならOKだよ」とローリングズ氏は答えた。スローンのことを何一つ知らないローリングズ氏は、別に不審なものを感じなかった。
ローリングズ氏は、このビジネスを始めて40年近くになる。何百人ものスカイダイバーが彼の単発機からジャンプしてきた。スカイダイバーの友人が同乗して、機内から写真を撮るケースもよくあった。
そして、翌週、スローンが再びローリングズ氏のスカイダイビング・クラブに現れた。ちょうど3人のスカイダイバーを乗せて飛ぶところだったので、スローンもそのフライトに同乗することになった。3人のスカイダイバーの構成は、インストラクタ、生徒、ビデオ撮影者がそれぞれ1人ずつである。
スローンは、その3人とあまり積極的に言葉を交わそうとせず、静かに座っていた。ローリングズ氏の操縦するCessna 182が高度を上げる中、黙って窓から外を眺め、おもむろに写真を撮り始めた。
高度1万フィートに達し、いよいよスカイダイバーたちが大空に飛び出そうという段になっても、スローンはシートベルトを固く締めて座っていた。3人のスカイダイバーたちが機外に飛び出す様子を、スローンはおとなしく見守っていた。
ところが、ローリングズ氏が3人を眼下に見送ってドアを閉めた次の瞬間、スローンはシートベルトを外すと、座席から飛び出してドアのレバーに手をかけた。反対側の手にはカメラをしっかり握っていた。
再びドアが開いた。風圧がかかってドアが閉まりそうになったが、スローンは強引にドアを全開にする。ローリングズ氏がスローンを制止しようとするが、開口部からスローンが一気に外に飛び出す。
機内から航空写真を撮るだけという名目である。もちろん、パラシュートなど身に着けていない。あっという間に落下していくスローンの姿を茫然と見送るばかりのローリングズ氏。ただ、ローリングズ氏によれば、スローンは叫び声を上げることもなく、動揺した様子もなく静かに落下していったように見えたという。
何の減速手段も持たないスローンは、先にジャンプした3人をやがて追い越してしまう。そのとき、ビデオ撮影者は、スローンのカメラのフラッシュから何度も閃光が放たれるのを見た。スローンは、高度1万メートルからの死のダイブの最中、自らの姿を冷静に撮影し続けていたのである。
まもなく、スローンは地上の民家の屋根に激突してダイブを終えた。
本稿では、普段とは少し趣向を変え、なんとなく“短編小説風”の構成と表現を用いたが、この話はもちろん実話である。本件が起きたのは、6月8日(日曜日)のこと。
連邦航空局(FAA)は、スローンの死に関する調査を行う予定はなく、州警察に任せることになるとコメントしている。州警察では、本件に事件性はないと判断しており、自殺として扱うことになるが、現在も検証を続けている。
スローンが迫り来る死の中で撮影したセルフポートレイトの行方については明らかにされていない。
1万フィート(約3000メートル)の上空からパラシュートなしで飛び降りた彼が民家の屋根に落下するまでに経過した時間の長さは風や気圧などの条件にも影響されるはずだが、1分から3分くらいだろうか。その間、冷静に自らの姿を写し続けたその行為はいったい何を意味するのか。
スローンは周囲と積極的に交わろうとせず、周囲に理解されようともしないタイプの人物だったようだ。それでも、彼の中には揺るがぬ自己肯定があったと見る。自己肯定を貫くには、このような死を遂げることも1つの選択肢だったということか。そして、その死自体をも肯定するために、彼は絶命の瞬間まで自分の姿を写真に収め続けたのかもしれない。
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1. グラビアアイドルの画像を貼っていって [ でっきぶらし -ネットの新鮮ニュースを毎日お届けします- ] 2008年06月10日 19:25
更新時間 2008/06/10 19:20
● 画像
● グラビアアイドルの画像を貼っていって。 (無題のドキュメント) けしからん!!!
● イー・モバイルの「EMONSTER lite(S12HT)」と「H11HW」の写真いろいろ (GIGAZINE) かっこいいけどイーモバ持ってな...
この記事へのコメント
1. Posted by hasegawa
2008年06月10日 10:52
そのノートに何が書かれていたのかも気になりますね。
2. Posted by えめとん
2008年06月10日 13:04
家の住民はさぞかし驚いたでしょうね。
しかし、航空機から飛び降り自殺とは…
しかし、航空機から飛び降り自殺とは…
3. Posted by 金髪の孺子
2008年06月10日 18:30
『短編小説風』…ドキドキして良い感じ。
何故彼は?ノートにはナニが?毎日青いウインドブレーカーの訳は?
なんとなく最近の事件とダブって見えるのは私だけ?
何故彼は?ノートにはナニが?毎日青いウインドブレーカーの訳は?
なんとなく最近の事件とダブって見えるのは私だけ?
4. Posted by ヴァル
2008年06月10日 20:09
開いた口がふさがりませんわ
スゲー死に方する人もいるもんだ‥‥
スゲー死に方する人もいるもんだ‥‥
5. Posted by れい
2008年06月10日 23:33
これは凄い…。
最後の最後に他人に迷惑をかけたのはどうかと思いますが、
自らの死の瞬間までそんな冷静にいられるものでしょうか。
最後の最後に他人に迷惑をかけたのはどうかと思いますが、
自らの死の瞬間までそんな冷静にいられるものでしょうか。
6. Posted by ろし
2008年06月11日 04:13
最高ダイブですね、わかります。
7. Posted by
アイデア
2008年06月11日 14:18
『まさかの結末』という短編集に、「死者の挨拶」という話があります。
テレビ番組のお話で、選ばれた5人のうち4人は億万長者、1人は死…。
その1人をどのように選ぶかというと、スカイダイビングです。
1つだけ開かないパラシュート。
地面に落ち続けるまで、カメラは回り続ける…そんなお話なんですが、、実際にもあるんですね。似たようなことが。
テレビ番組のお話で、選ばれた5人のうち4人は億万長者、1人は死…。
その1人をどのように選ぶかというと、スカイダイビングです。
1つだけ開かないパラシュート。
地面に落ち続けるまで、カメラは回り続ける…そんなお話なんですが、、実際にもあるんですね。似たようなことが。
8. Posted by あ
2008年06月17日 05:47
9. Posted by 乃伊
2008年06月18日 09:16
カメラも無事じゃ済まない気が
10. Posted by k
2008年07月04日 06:44
行き着くところまで行ってしまったのか、
はたまた頭がおかしくなってしまったのか・・・。
真相は分からず・・・。
死人に口無しと言いますからね。
人と話す事、人に何かを伝える事が生きる事の意味だとすれば・・・
彼の死は必然だったのかもしれませんね。
はたまた頭がおかしくなってしまったのか・・・。
真相は分からず・・・。
死人に口無しと言いますからね。
人と話す事、人に何かを伝える事が生きる事の意味だとすれば・・・
彼の死は必然だったのかもしれませんね。
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