2008年05月12日
米国フロリダ州オーランドに「ファッション・スクウェア・モール」という名のショッピング・モールがある。入り口には、ガラス張りの扉がいくつかある。いずれも自動ドアではなく、手で開けなければ中に入れない。その日、どの扉にもいっせいにポスターが貼られた。
やってきた買い物客はいやおうなくポスターを目にすることになる。ポスターには、愛くるしい8歳の少女の写真が印刷されている。ほくそ笑むような表情。ボリューム感のある“くせ毛”が肩にかかっている。
写真の右側には、彼女の名前が「ブリトニー」であること、髪の色が茶色、瞳がブルー、身長が124センチ、体重が22キロであることが示されている。そしてポスターの最上部には赤い文字で「2008年4月1日から行方不明」と書かれている。
入り口を入って少し進んだところにベンチがある。そのベンチの上に、幼い女の子がたった一人で座っていた。誰あろう、行方不明のブリトニーちゃん本人がそこにぽつんと座っていたのである。
遠目に見ても、特徴のある“くせ毛”が目に入るはずだ。しかし、彼女の存在に気づく買い物客はなかなか現れなかった。大多数の買い物客は、入り口でポスターに注目していたにもかかわらず、ブリトニーちゃんの傍をそのまま通り過ぎてしまう。
幼い少女が座っていることにすら気づかない人もいたが、少女が座っていることに気づいてもそれがブリトニーちゃん本人だと気づかずに通り過ぎる人が大多数を占めた。
実は、これは地元のテレビ局“Local 6”が企画した“実験”だった。行方不明の少女のポスターを見た人たちのうち、当の少女の存在に気づく人や少女を助けようとする人が実際にどれくらいいるかを確かめようとしたのである。
“ブリトニーちゃん”に扮していたのは8歳の子役である。その父親がすぐ近くのレストランの中から娘の様子を見守っていた。
ショッピング・モール入り口の外側と内側には、買い物客に気づかれないようにカメラがいくつか設置されていた。安全を確保するため、各コーナーにはLocal 6のスタッフが配備されていた。
しかし、前述したように大多数の買い物客は、たった今見たポスターの写真とそっくりな少女のそばを素通りしてしまったのである。“ブリトニーちゃん”の存在に気づいて行動を起こした人は、たったの4人しかいなかった。うち、直接声をかけた人が2人、ショッピング・モールのセキュリティを呼んだ人が2人だった。
Local 6のドナルド・フォーブズ記者らが買い物客に後から事情を説明して、インタビューしたところ、素通りした人の中には「少女の姿が目に入りませんでした。少女がいることにまったく気づかなかったのです」と答えた人や、「少女の姿は目に入りましたが、気がつきませんでしたねえ」と答えた人がいた。
しかし、実際には写真と同じ少女かもしれないと思いつつ、見て見ぬふりをしてしまったと認める人も少なくなかった。
たとえば、ある男性客はこう話している。「ポスターをじっくりと見ましたよ。私はカメラマンをしているので、人の顔を覚えるのが得意です。で、中に入ると、そっくりな少女がいるじゃないですか。でも、どう対処してよいかわかりませんでした」
また、次のようなことを心配して躊躇した人が少なくないこともわかった。
さて、“ブリトニーちゃん”に直接声をかけたのは、次の2人の女性客である。
そして、直接声をかける代わりにショッピング・モールのセキュリティを呼ぼうとしたのは、ケーティ・ヨカムさんとマリア・マジロスさん。2人はどちらも入り口のポスターに念入りに目を通した後、中に入って少女に気づいた。そして近くの店舗に直行して、セキュリティを呼ぶように店長に頼んだ。
人違いの場合に生じうるトラブルのことを考えれば、この2人のように直接には声をかけず、なおかつ警察にすぐに連絡するのでもなく、モールのセキュリティを呼ぶというのが最もスマートな対応かもしれない。
ともあれ、上記4人を例外として、大多数の人たちはポスターで見たばかりの本人が目の前にいるのに気づかず素通りしたわけである。これはまさに、灯台下暗しを地で行く結果である。
ただし、この実験に関しては、注意すべき点があると思う。いくら入り口の何箇所にもポスターが貼られていたところで、買い物客たちが“ブリトニーちゃん”の顔写真を見たのはそのときが初めてだったという点である。
“ブリトニーちゃん”本人と気づかずに素通りする人が大多数を占めたのは、いくら直前にポスターを目にしたとは言え、その日初めて見た顔だったからではないか。それに、ポスターで目にした少女がその数秒後に目の前に現れるという出来過ぎなタイミングも逆に盲点を突く可能性がある。
仮に顔写真をテレビなどでこれまでに何度も見ていたとしたら、“ブリトニーちゃん”らしき少女に気づく人がもっと多かったのはもちろんのこと、本人だと確信して行動を起こす人だって少なくなかったのではなかろうか。
もっとも、人の顔を覚えるのが苦手な人や、買い物のことで頭がいっぱいな人は、たとえメディアを通じて何度も目にした少女がそこにいても気づかなかった可能性がある。こんな点にも、行方不明者探しの難しさがあるのだろう。
■ Source: Majority Of People In 'Missing Child' Experiment Don't Notice, Help Girl
(※この英文記事の右上にビデオが用意されている。また、スライドショーも用意されている)。
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写真の右側には、彼女の名前が「ブリトニー」であること、髪の色が茶色、瞳がブルー、身長が124センチ、体重が22キロであることが示されている。そしてポスターの最上部には赤い文字で「2008年4月1日から行方不明」と書かれている。
入り口を入って少し進んだところにベンチがある。そのベンチの上に、幼い女の子がたった一人で座っていた。誰あろう、行方不明のブリトニーちゃん本人がそこにぽつんと座っていたのである。
遠目に見ても、特徴のある“くせ毛”が目に入るはずだ。しかし、彼女の存在に気づく買い物客はなかなか現れなかった。大多数の買い物客は、入り口でポスターに注目していたにもかかわらず、ブリトニーちゃんの傍をそのまま通り過ぎてしまう。
幼い少女が座っていることにすら気づかない人もいたが、少女が座っていることに気づいてもそれがブリトニーちゃん本人だと気づかずに通り過ぎる人が大多数を占めた。
実は、これは地元のテレビ局“Local 6”が企画した“実験”だった。行方不明の少女のポスターを見た人たちのうち、当の少女の存在に気づく人や少女を助けようとする人が実際にどれくらいいるかを確かめようとしたのである。
“ブリトニーちゃん”に扮していたのは8歳の子役である。その父親がすぐ近くのレストランの中から娘の様子を見守っていた。
ショッピング・モール入り口の外側と内側には、買い物客に気づかれないようにカメラがいくつか設置されていた。安全を確保するため、各コーナーにはLocal 6のスタッフが配備されていた。
しかし、前述したように大多数の買い物客は、たった今見たポスターの写真とそっくりな少女のそばを素通りしてしまったのである。“ブリトニーちゃん”の存在に気づいて行動を起こした人は、たったの4人しかいなかった。うち、直接声をかけた人が2人、ショッピング・モールのセキュリティを呼んだ人が2人だった。
Local 6のドナルド・フォーブズ記者らが買い物客に後から事情を説明して、インタビューしたところ、素通りした人の中には「少女の姿が目に入りませんでした。少女がいることにまったく気づかなかったのです」と答えた人や、「少女の姿は目に入りましたが、気がつきませんでしたねえ」と答えた人がいた。
しかし、実際には写真と同じ少女かもしれないと思いつつ、見て見ぬふりをしてしまったと認める人も少なくなかった。
たとえば、ある男性客はこう話している。「ポスターをじっくりと見ましたよ。私はカメラマンをしているので、人の顔を覚えるのが得意です。で、中に入ると、そっくりな少女がいるじゃないですか。でも、どう対処してよいかわかりませんでした」
また、次のようなことを心配して躊躇した人が少なくないこともわかった。
- 少女が行方不明の“ブリトニー”ちゃんではなく、しかも近くに親がいたら、自分が不審者扱いされてしまう
- いざ警察に連絡しても、自分の早合点で人違いだったら嫌だなあ
さて、“ブリトニーちゃん”に直接声をかけたのは、次の2人の女性客である。
- ジーナ・ペラゼーラさん
ジーナさんは、少女の隣りに腰を下ろして、声をかけた。ただし、その時点で少女が“ブリトニーちゃん”本人だと確信していたわけではない。幼い女の子が一人ぼっちで座っているの見るに見かねて声をかけた。
すると、一緒にショッピング・モールに来ていたマーロン・キャンベルさんが「この子はポスターの子じゃないか」と驚きの声を上げた。そしてポスターをもう一度確かめると、まさしく少女が“行方不明のブリトニーちゃん”であることがわかった。
なお、ジーナさんはLocal 6サイトで公開されているビデオ(リンクは下記)の中盤で、“Gina Perazella”のクレジットと共に登場するハリウッド女優並の美貌の持ち主である。
- チェルサ・スチュワートさん
チェルサさんは少女にすぐに気づいたものの、最初は立ち止まらず買い物に行ってしまう。しかし、10分ほどするとベンチのところに戻ってきて、“ブリトニーちゃん”に「大丈夫?」と声をかけた。
そして、直接声をかける代わりにショッピング・モールのセキュリティを呼ぼうとしたのは、ケーティ・ヨカムさんとマリア・マジロスさん。2人はどちらも入り口のポスターに念入りに目を通した後、中に入って少女に気づいた。そして近くの店舗に直行して、セキュリティを呼ぶように店長に頼んだ。
人違いの場合に生じうるトラブルのことを考えれば、この2人のように直接には声をかけず、なおかつ警察にすぐに連絡するのでもなく、モールのセキュリティを呼ぶというのが最もスマートな対応かもしれない。
ともあれ、上記4人を例外として、大多数の人たちはポスターで見たばかりの本人が目の前にいるのに気づかず素通りしたわけである。これはまさに、灯台下暗しを地で行く結果である。
ただし、この実験に関しては、注意すべき点があると思う。いくら入り口の何箇所にもポスターが貼られていたところで、買い物客たちが“ブリトニーちゃん”の顔写真を見たのはそのときが初めてだったという点である。
“ブリトニーちゃん”本人と気づかずに素通りする人が大多数を占めたのは、いくら直前にポスターを目にしたとは言え、その日初めて見た顔だったからではないか。それに、ポスターで目にした少女がその数秒後に目の前に現れるという出来過ぎなタイミングも逆に盲点を突く可能性がある。
仮に顔写真をテレビなどでこれまでに何度も見ていたとしたら、“ブリトニーちゃん”らしき少女に気づく人がもっと多かったのはもちろんのこと、本人だと確信して行動を起こす人だって少なくなかったのではなかろうか。
もっとも、人の顔を覚えるのが苦手な人や、買い物のことで頭がいっぱいな人は、たとえメディアを通じて何度も目にした少女がそこにいても気づかなかった可能性がある。こんな点にも、行方不明者探しの難しさがあるのだろう。
■ Source: Majority Of People In 'Missing Child' Experiment Don't Notice, Help Girl
(※この英文記事の右上にビデオが用意されている。また、スライドショーも用意されている)。
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更新時間 2008/05/12 21:00
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この記事へのコメント
1. Posted by だいなまいと 2008年05月12日 06:42
まあこんなもんだろーなー
2. Posted by 、 2008年05月12日 11:47
悲しいかな、これが人間だな…。
4. Posted by jacklegdoc 2008年05月12日 12:55
「行方不明で張り出されているくらいだから、この辺りにはまずいないんだろう」と思って見逃したんじゃないんですかねぇ、「店に入ってすぐその子がいるかもしれない」とは普通思わない気がします。それにしてもジーナさんかわいい。
6. Posted by k 2008年05月18日 21:38
ちゃんと実験の問題点にも触れるとは親切な記事だな