2008年04月28日
1本の草が生えているとしよう。その草に蝶や蛾などの幼虫がやって来る。茎を一生懸命這い登り、見るに美味しそうな葉を食べ始めようとすると、地下から“電話”がかかってくる。「おいおい、この草はもう先客がいるんだ。別の草を探してくれ」と。
“電話”の主は、その草の根に巣食っている昆虫である。“電話”を受けた地上の昆虫は、「じゃあ仕方ないから、別の草を探そう」と引き上げる。こうして、地下の虫と地上の虫が同じ1本の草を奪い合ったりせずに平和に暮らしている。
まるで、子供向けの絵本に出てきそうな話だ。しかし、最近になって、同じ1本の植物を地下の昆虫と地上の昆虫が共有した場合、どちらの昆虫も成長の速度が低下する現象が存在することがわかってきた。
そして、同じ草を地下の昆虫と地上の昆虫が共有するのを防止する仕組みが自然界に存在することをオランダ生態学研究所(NIOO-KNAW)の研究者たちがこのたび発見した。同研究所のロキシナ・ソレル女史は、“緑の電話線”という詩情豊かな比喩で、その仕組みを説明している。
もちろん、音声による“電話”とは、まったく違う仕組みである。根に巣食っている地下昆虫が化学物質を根の中に送り込む。この化学物質が蒸散にともない葉から放出される。これが“先客あり”の警告信号の役目を果たし、葉を食もうとする地上昆虫を追い払うことになる。
地下昆虫と地上昆虫は、“互いに別の次元”で暮らしているのも同然である。お互いの存在を直接に確認し合うことがまったくできない。そこで、地下昆虫がこのようなシグナルを送ることによって、見たこともない地上昆虫に自分の存在を知らしめるという仕組みが“自然淘汰”を通じて生まれたらしい。不必要な競合を避けるために生まれたメカニズムである。
ただし、地上昆虫(主に蝶や蛾などの幼虫)にとっては迷惑な一面もある。この化学物質を嗅ぎ取ることができるのは彼らだけではない。彼らの天敵である寄生蜂は、その化学物質が放出されていない草に絞り込んで幼虫たちを探せばよいことになる。
地下昆虫と地上昆虫のコミュニケーション・メカニズムの存在は、今のところごく限られた生態系でしか確認されていない。現段階では、自然界に普遍的なものかどうかを判断できない。
まあ、根から注入された化学物質が蒸散にともなって葉から放出されるというプロセスなので、これは一方向の通信でしかなく、電話線にたとえるには無理がある。地上昆虫が地下昆虫に返事をできるわけではない。とはいえ「虫たちが緑の電話線を通じて会話する」などと聞くと、なんだかメルヘンチックに癒されるものを感じる人もいるだろう。
本件は本来、生態学上の発見の話なのだが、暗喩めいたものを見出したくなるところでもある。互いの存在を直接に確認できない地下昆虫と地上昆虫が同じ草を共有すると、どちらにとっても不利な結果が待っている。そこで地下から地上にシグナルが発信される。その結果、お互いに邪魔をしないで暮らすことができる。
ただし、この仕組みのおかげで“平和な暮らし”を続けられるのは、地下昆虫だけだという皮肉も面白い。地上昆虫は、逆に天敵に見つけられやすくなってしまうという迷惑も被っている。人間界にも、何かこれと似た仕組みが存在していたりするかもしれない。
また、これが地下と地上という2つの異なる“次元”(昆虫たちにとっては別次元のはず)の間での通信であることにも興味深さを感じる。まだ知られていないだけで、自然界には(というか、この世には)、“あちら側”と“こちら側”をつなぐ交信経路みたいなものがいろいろあるのかもしれない。草葉の蔭から見ているとも言う。
■ Reference: Insects Use Plants Like A Telephone
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まるで、子供向けの絵本に出てきそうな話だ。しかし、最近になって、同じ1本の植物を地下の昆虫と地上の昆虫が共有した場合、どちらの昆虫も成長の速度が低下する現象が存在することがわかってきた。
そして、同じ草を地下の昆虫と地上の昆虫が共有するのを防止する仕組みが自然界に存在することをオランダ生態学研究所(NIOO-KNAW)の研究者たちがこのたび発見した。同研究所のロキシナ・ソレル女史は、“緑の電話線”という詩情豊かな比喩で、その仕組みを説明している。
もちろん、音声による“電話”とは、まったく違う仕組みである。根に巣食っている地下昆虫が化学物質を根の中に送り込む。この化学物質が蒸散にともない葉から放出される。これが“先客あり”の警告信号の役目を果たし、葉を食もうとする地上昆虫を追い払うことになる。
地下昆虫と地上昆虫は、“互いに別の次元”で暮らしているのも同然である。お互いの存在を直接に確認し合うことがまったくできない。そこで、地下昆虫がこのようなシグナルを送ることによって、見たこともない地上昆虫に自分の存在を知らしめるという仕組みが“自然淘汰”を通じて生まれたらしい。不必要な競合を避けるために生まれたメカニズムである。
ただし、地上昆虫(主に蝶や蛾などの幼虫)にとっては迷惑な一面もある。この化学物質を嗅ぎ取ることができるのは彼らだけではない。彼らの天敵である寄生蜂は、その化学物質が放出されていない草に絞り込んで幼虫たちを探せばよいことになる。
地下昆虫と地上昆虫のコミュニケーション・メカニズムの存在は、今のところごく限られた生態系でしか確認されていない。現段階では、自然界に普遍的なものかどうかを判断できない。
まあ、根から注入された化学物質が蒸散にともなって葉から放出されるというプロセスなので、これは一方向の通信でしかなく、電話線にたとえるには無理がある。地上昆虫が地下昆虫に返事をできるわけではない。とはいえ「虫たちが緑の電話線を通じて会話する」などと聞くと、なんだかメルヘンチックに癒されるものを感じる人もいるだろう。
本件は本来、生態学上の発見の話なのだが、暗喩めいたものを見出したくなるところでもある。互いの存在を直接に確認できない地下昆虫と地上昆虫が同じ草を共有すると、どちらにとっても不利な結果が待っている。そこで地下から地上にシグナルが発信される。その結果、お互いに邪魔をしないで暮らすことができる。
ただし、この仕組みのおかげで“平和な暮らし”を続けられるのは、地下昆虫だけだという皮肉も面白い。地上昆虫は、逆に天敵に見つけられやすくなってしまうという迷惑も被っている。人間界にも、何かこれと似た仕組みが存在していたりするかもしれない。
また、これが地下と地上という2つの異なる“次元”(昆虫たちにとっては別次元のはず)の間での通信であることにも興味深さを感じる。まだ知られていないだけで、自然界には(というか、この世には)、“あちら側”と“こちら側”をつなぐ交信経路みたいなものがいろいろあるのかもしれない。草葉の蔭から見ているとも言う。
■ Reference: Insects Use Plants Like A Telephone
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1. パソコンのUSB端子に何刺さってる? [ でっきぶらし -ネットの新鮮ニュースを毎日お届けします- ] 2008年04月28日 15:36
更新時間 2008/04/28 15:35
● 画像
● パソコンの中はこんな感じ (エルエル) きったね・・w
● 海の中の恐怖画像集めんぞ (無題のドキュメント) 深海おそろしあ・・・
● 動画
● 全身を鏡で覆うと景色が映りこみ透明になれ...
この記事へのコメント
1. Posted by 経済学者の妻 2008年04月28日 12:52

2. Posted by 2008年04月29日 17:44
街の飼い犬が“黄の電話線”で他の犬に語りかける
ナルホド、詩的だw
ナルホド、詩的だw
3. Posted by ショーキ 2008年05月01日 00:36

掲載時刻及び内容から考えるに、たまたまお二方が別個に訳してたのに紹介タイミングがかぶってしまったのでしょうが、こんな事って珍しいですねぇ。
それだけ原文記事が魅力的だったってことでしょうか?