クラウドソーシング「ランサーズ」 なんでも評点:太陽を直視しすぎたため少なくとも50人が失明 ― 見えないものを見ようとして、見えているものを見えないことにした結果か

2008年03月12日

太陽を直視しすぎたため少なくとも50人が失明 ― 見えないものを見ようとして、見えているものを見えないことにした結果か


ぼちぼち春分の日を迎えるわけだが、この時期、赤道付近の地域では真昼の太陽がほぼ真上から射す。インドの最南部に位置するケーララ州のコッタヤム県も(赤道よりまだ少し北に位置するとはいえ)、この時期は強烈な日射にさらされる。そして、その燦然と輝く太陽から決して目をそらそうとしない人たちがいる。
この地域にそういう風習があるからではない。ある場所から空を見ていると聖なる像が見えるという噂が広まり、その像を一目見ようと集まった人たちである。しかし、その像を目に収めるには、いくら太陽が照り付けていても目をそらすわけにはいかないのだ。

その結果、少なくとも50人が失明に至ったという。地元のセントジョセフ耳鼻咽喉眼科病院では、3月7日以来、視力を失って運び込まれてきた患者の数が48人に達している。いずれも、網膜を損傷している。損傷の原因は熱傷ではなく、光化学反応である。

同病院の眼科医アナマ・ジェームズ・アイザック医師は、こう話している。「(目に損傷を負った)経緯とその症状は、全患者の間で共通しています。太陽を長時間にわたって直視し続けたため、熱ではなく光化学反応による損傷を負ったのです」

さて、いったいどういう噂を信じて、多数の人たちが太陽から目をそらそうともせずに空を見つめ続けているのだろうか? 発端は、あるホテル経営者の目撃談だった。ホテル経営者は、ある日、自宅から空を眺めているときに、聖母マリアの姿をしかと目に焼き付けたと主張していた。彼によれば、空に浮かび上がった聖母マリアは蜂蜜の涙を流し、香油の血を流していたという。

ホテル経営者はその後別の場所に住居を移したのだが、彼の目撃談が数ヶ月前から地元に広まっていた。

地元当局では、その噂を打ち消すと共に日光を直視することの危険性を警告する看板をホテル経営者の旧宅付近に掲示することにした。また、地元のキリスト教会の聖職者たちも、自分たちには一切関係のないことだと言明している。だが、それでも聖母マリアが必ず空に浮かび上がると信じて、いまだに大勢の人たちがホテル経営者の旧宅付近に群がっている。

おそらく数か月前に噂が広まった直後なら、まだ日射しは強くなかったから、失明する人もいなかったのだろう。しかし冒頭に書いたように、この時期、赤道付近に位置するケーララ州では真昼の太陽が真上から射す。真上から射す日光は、斜めに射す日光より単位面積あたりのエネルギー量が大きくなる。

ところで、多数の人たちが群がっているとはいえ、聖母マリアに関心があるのはキリスト教徒だけのはず。インドといえば、ヒンズー教の国というイメージが強い。インドで2001年に実施された国勢調査によれば、以下のような宗教人口比率になっている。

  1. ヒンドゥー教徒:80.5%
  2. イスラム教徒:13.4%
  3. キリスト教徒:2.3%
  4. シク教徒:1.9%
  5. 仏教徒:0.8%
  6. ジャイナ教徒:0.4%


キリスト教徒は第3位とはいえ、2.3%しかいない。ホテル経営者の旧宅付近に大勢群がっていると言っても、しょせんは少数派でしかないように見える。ところが、ケーララ州はインドの中でも宗教人口に特異性があり、キリスト教徒が19.3%もいる(参考記事)。

ともあれ、見えないはずのものを見ようとした結果、何も見えなくなってしまうというのは、ある意味、本末転倒な話かもしれない。だが、網膜に光化学反応が生じるほど長時間にわたって日光を直視し続けたのは、聖母マリアの像をこの目に収めたいという願望がそれだけ強かったからなのだろう。救いを求めている人たちがそれだけ多いということかもしれない。

同時に、彼らは見えているものをあえて見えていないと自分に言い聞かせているとも分析できそうだ。彼らが見えていないと信じたいのは、猛烈な直射日光である。彼らは聖母マリアを見たいがために、太陽は見えていないことにしたいのではないか。実際、網膜に光化学反応が生じた人たちは、空を眺めているときから目に異変を感じていたはずだ。だがその異変を異変として認めたくなかったのではないか。

そう言えば先日の記事のコメント欄で、このむさくるしい筆者に向かって「(筆者自身の)恋愛観を語るような記事」のリクエストがあったのだが、本件に強引に結びつけた考察も可能かと思う。

人は、たとえば理想の異性像のようなものを持っている。その理想像を誰かの中に見つけたとき、人はその相手に心奪われていく。たいていの場合、相手のことを知れば知るほど、理想像との溝が広がっていくのだが、それに気づかない(あるいは無意識に打ち消そうとする)ことがある。その場合、その人が見えていると信じているものは、実際には見えていないものだということになる。

その反面、理想像とかけ離れた部分は見ようとしない。見えていても見えないことにしたがる。理想像とかけ離れた部分が取るに足らない相手の癖とか容姿の一部なら害はない。だが、自分にとって有害な要素があるのに、それを見えていないことにしたがる人がいる。

相手が持つその有害な要素を見えないことにしている場合、本当に自分に害が及んでもそれを認めたがらないことがある。たとえば、自分のことを愛してくれてもいない相手に金を貢ぎ続ける人や、DV男と別れられない女性がこれに該当しそうだ。いずれの場合も、聖母マリアを見ようとした人たちの目が強烈な直射日光によって破壊されたように、相手が持つ有害な要素がその人を精神面、経済面、あるいは肉体面から破壊していくことになる。




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2. 聖なる像を「目に焼き付けよう」と太陽を直視、少なくとも50人が失明  [ 神楽書堂‐ニュースログ‐ ]   2008年03月13日 15:29
画像:太陽 - Wikipedia辛いものから目をそらさない姿勢は立派ですが、頭上に輝いている「あれ」を直視するのはやめましょう、という話。 「見る...

この記事へのコメント

1. Posted by jacklegdoc   2008年03月12日 18:53
敬虔なキリスト教徒が信仰のためと言うよりは、気軽に奇跡を経験したい人が集まった気がしますが、皮肉な話ですね。
網膜や光の受容はある意味 私の得意分野ですが、分子や細胞ですら分からないことだらけなのに、人の心理ははるかに理解不能だといつも思います。
関係ありませんが、聖痕や神のモジュールの記事はめっきり目にしなくなりましたが、人の脳が奇跡を起こしている事が多い気がします。
2. Posted by ∩   2008年03月12日 19:28
5  実に多角的なエントリですね。地理、天文、医学、宗
教、心理学、そして恋愛論ですか。こういう視点の広さ、
分野にまたがる雑学的なふところの広さが凄い。
 先日書籍の件でもコメントしましたが、書籍も同じく
多角的な内容になってますよね。でも、売り方は世界の
珍事件集みたいな感じで、装丁を含めて、出版社の狙い
が外れている印象。

3. Posted by モッチ   2008年03月12日 20:55
真上にある太陽を失明するまで自分の意思で直視し続けるなんてなぜ?ありえな〜い!と思いながら読んでみると最後はまたまた完全に納得。「信じることは救われること?」がこの場合、「破壊されること」になってしまったなんてお気の毒な話です。と同時にこの記事を読んで太陽が出ている間は唾液さえ吐き捨てるラマダン時期のエジプト人の姿を思いだしました。漠然とした発言ですが信仰心っていろんな意味で恐いと思った。
4. Posted by モッチ   2008年03月12日 21:47
ミッキーさん曰く、『本件に強引に結び付けた考察』の部分、興味深く読ませていただきました。その部分に関して、ミッキーさんの仰っていることは確かに現実男女間にある事だなあと思いました。でもある意味、有害な要素さえ有益な要素?のように受け止めることができるほど誰かを好きになるその気持ち自体は分かるような?分からないような?ですかね(笑)『強引に結び付けた考察』これからも楽しみにしています!さすが鮮やか☆
5. Posted by 、   2008年03月13日 11:49
どんな人間でも何かしらの狂信を持ってるからな
何も考えず、その場その場で決定する事が最善の中庸?悪く言えば行き当たりばったり?
6. Posted by モッチ   2008年03月13日 19:06
私はミッキーさんに『恋愛観を語るような記事』のリクエストをした者です。
お忙しい中、あの様なリクエストに配慮をいただき、また応えて下さるような形で記事を仕上げ提供して下さったこと、本当にありがとうございました。
私の感謝の気持ち『何を今さら度』評点は高いかもしれませんが、一言お礼を言わせていただきたいと思いました。
仮にどんな形のブログになってもこれからも陰ながら応援しています(^^)/~
7. Posted by (^-^)/   2008年03月14日 22:54
記事へのコメントではないのですが、今日友達にプレゼントのつもりでミッキーさんの本を以前購入した同じ書店に買いに行ってみると売り切れでした。なので駅ビルの中にあるもう少し大きな書店へ行ってみましたがそちらでも売り切れ。両書店共元の入荷数はわかりませんが、初めからもう少し多目に入荷させていたら良かったのにと私の思うところでした。でも取り寄せで注文はできました(^^)v
因みに埼玉県での話です。
8. Posted by 。   2008年03月18日 23:44
恋は盲目って昔から言いますよね。
9. Posted by 真理   2008年03月24日 20:58
人間、見えないものを見たがる生き物なんですね。共感。
私が、今一番見たいものは、米国政府の実態です。
映画だとボーンシリーズや、今度公開される「ハンティング・パーティ」が好きですね。。

http://huntingparty.at.webry.info/200803/article_5.html
10. Posted by Home   2014年05月10日 23:36
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11. Posted by continue reading this..   2014年05月11日 07:36
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12. Posted by Full Statement   2014年05月12日 08:28
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