2008年01月20日
生体肝移植では、健常者が肝臓の提供者(ドナー)となる。健康な体にメスが入れられ、健康な肝臓の一部が取り出されるのだ。「日本肝臓移植研究会」サイトの「生体肝提供(ドナー)手術に関する指針」ページによると、日本ではこれまでに2000件を超える生体肝移植手術が実施されてきたが、ドナーの死亡例は今のところゼロだという。
しかし、ドナーがリスクを負わないはずがない。上記の「指針」ページの記述によると、欧州では2000年末までに、肝臓を提供したドナー430人のうち、4人が死に至っている。さらに米国では、ドナー1000人あたり4人が死亡している。また、提供した肝臓組織の量が多すぎたがために、のちに自分の肝臓が容量不足になり、今度は別のドナーから肝臓を移植してもらう必要が生じた元ドナーも2人いるらしい。
このWebページには、欧米で生体肝移植ドナーが手術により死亡する率は、0.3〜0.9パーセントの範囲内だと考えられる・・・との記述も付記されている。
上記の「指針」ページの「V. 生体肝ドナーに説明すべき事項」には、以下の事項が挙げられている。
肝移植を必要としている患者を心から愛している人でない限り、ここまでの危険を賭してまでドナーになれるものではなさそうだ。米国で毎年300件以上実施されている生体肝移植でも、ドナーとなるのは肝移植を必要としている患者の親族か、親しい友人がほとんどである。
さて、先日、米国ネブラスカ州最大の都市オマハのネブラスカ・メディカル・センターで1歳半の女の子エヴァ・カウエルちゃんが生体肝移植を受けた。エヴァちゃんは、生後数時間で先天性腸管異常と診断された(注:ソースには“intestinal birth defect”と記載されているが、実際には胆道閉鎖症かもしれない)。
できるだけ早期に肝移植を受ける必要があった。ならば親族からの生体肝移植が第一に考えられる。しかし、エヴァちゃんの母エリカ・カウエルさんをはじめ、親族の中に誰一人としてドナー適合者がいなかった。
適合する脳死ドナーが現れることもないまま、18か月が経った。その間、エヴァちゃんは何度も生死の境をさまよった。もう、あと数日で娘の命の火が消えるかもしれない――母エリカさんは悲愴な気持ちで病床のエヴァちゃんを見守り続けた。
エリカさんは決心した。このまま時が過ぎるのにまかせているわけにはいかない。何か違うことをしなければ、と。
エリカさんは地元の新聞社を訪問し、自分の娘が肝移植を必要としていることを記者に話した。そしてまもなくエヴァちゃんのことを伝える記事が新聞紙上に掲載された。
とはいえ、赤の他人の子供のために上記のようなリスクを覚悟の上で生体肝移植ドナーに名乗り出る殊勝な人がいるとは、なかなか期待できない話である。しかし、名乗り出た人がいたから、こうしてニュースになった。
ドナーに名乗り出たのは、サラ・カイザーさんという23歳の女性。彼女はミネソタ州ミネアポリスのオーグスバーグ大学に通う女子大生であると当時に、既に息子を持つ母でもある。息子と家で過ごしているときに、エヴァちゃんのことを伝える記事をたまたま目にした。
「なんの気なしに記事に目を通すと、エヴァちゃんという女の子が奇跡を必要としていると書かれていました」サラさんは言う。「エヴァちゃんのお母さんの立場に立って考えてみたんですよ。もし私が同じ状況に立たされたら、誰かが手を差し伸べてくれることをきっと切望するでしょう」
サラさんの決断と行動は早かった。まず、丸1日かけて医学検査と心理学検査を受けた。結果が出た。まさしく、サラさんはドナー適合者だった。
そしてそのわずか数日後、サラさんの健康な肝臓の25パーセントを摘出する手術が執り行われた。
サラさんからの摘出手術が完了するやいなや、待機していた外科医の手によりエヴァちゃんへの移植手術が開始された。5時間後、無事移植手術が完了した。
全身麻酔から覚めたサラさんは、ベッドから降りて歩き始めた。エヴァちゃんが眠っている病室に向けて・・・。
サラさんは、エヴァちゃんに会いたくてたまらなかったのだという。そして、感無量の対面を果たす。エヴァちゃんの家族たちからは感謝感激の嵐。
ただし、健康な肝臓を移植されたといっても、エヴァちゃんが今すぐ急速に回復するわけではない。まだまだ道のりは長い。
現在、エヴァちゃんは重篤ではあるものの安定した容態にある。今後数ヶ月はネブラスカ・メディカル・センターに入院したまま過ごす。医師たちがエヴァちゃんの回復ぶりを慎重に見守ることになる。
なお、ソースとして参照した英文記事(リンクは下記)にはビデオも用意されている。最初の1分ほどはCMだが、その後、エヴァちゃんとサラさんのストーリーが始まる。再生時間0:54くらいで紫のブラウスを着たブロンドの女性が現れる。この女性がサラさんである。
映像は、エヴァちゃんの母エリカさんがサラさんに感謝の言葉を浴びせるシーンで終わっている。「ありがとう。エヴァの命を救ってくれて、ありがとう」と。
サラさんは、赤の他人のために死亡率0.3〜0.9パーセントのドナー手術を受けて、健康な肝臓の4分の1を提供し、幼い女の子の命をタイムリミットぎりぎりで救ったのだ。ただただ純粋に「自分が同じ立場だったら・・・」と考えて、サラさんは生体肝移植ドナーに名乗り出た。なんと優しい心の持ち主だろうか。
■ Source: Stranger Donates Part Of Liver To Little Girl
【関連記事】
このWebページには、欧米で生体肝移植ドナーが手術により死亡する率は、0.3〜0.9パーセントの範囲内だと考えられる・・・との記述も付記されている。
上記の「指針」ページの「V. 生体肝ドナーに説明すべき事項」には、以下の事項が挙げられている。
1. 全身麻酔下の外科手術に共通する手術中あるいは手術後の危険性、即ち出血、感染、麻酔合併症、死亡1)など
2. 一般的な腹部手術後に起こりうる合併症、即ち消化管機能障害、腸閉塞、消化性潰瘍、腹壁瘢痕ヘルニアなど
3. 肝切除量が多い場合、残肝容量不足から術後肝不全になる可能性
4. 早期あるいは晩期の胆道系・血管系の合併症
5. 成分輸血や血液製剤の投与に付随する危険性
6. 一時的あるいは永続的な身体的または心理的な損失や有害事象
7. 晩期の未知の合併症
【引用元】http://jlts.umin.ac.jp/donor.html
肝移植を必要としている患者を心から愛している人でない限り、ここまでの危険を賭してまでドナーになれるものではなさそうだ。米国で毎年300件以上実施されている生体肝移植でも、ドナーとなるのは肝移植を必要としている患者の親族か、親しい友人がほとんどである。
さて、先日、米国ネブラスカ州最大の都市オマハのネブラスカ・メディカル・センターで1歳半の女の子エヴァ・カウエルちゃんが生体肝移植を受けた。エヴァちゃんは、生後数時間で先天性腸管異常と診断された(注:ソースには“intestinal birth defect”と記載されているが、実際には胆道閉鎖症かもしれない)。
できるだけ早期に肝移植を受ける必要があった。ならば親族からの生体肝移植が第一に考えられる。しかし、エヴァちゃんの母エリカ・カウエルさんをはじめ、親族の中に誰一人としてドナー適合者がいなかった。
適合する脳死ドナーが現れることもないまま、18か月が経った。その間、エヴァちゃんは何度も生死の境をさまよった。もう、あと数日で娘の命の火が消えるかもしれない――母エリカさんは悲愴な気持ちで病床のエヴァちゃんを見守り続けた。
エリカさんは決心した。このまま時が過ぎるのにまかせているわけにはいかない。何か違うことをしなければ、と。
エリカさんは地元の新聞社を訪問し、自分の娘が肝移植を必要としていることを記者に話した。そしてまもなくエヴァちゃんのことを伝える記事が新聞紙上に掲載された。
とはいえ、赤の他人の子供のために上記のようなリスクを覚悟の上で生体肝移植ドナーに名乗り出る殊勝な人がいるとは、なかなか期待できない話である。しかし、名乗り出た人がいたから、こうしてニュースになった。
ドナーに名乗り出たのは、サラ・カイザーさんという23歳の女性。彼女はミネソタ州ミネアポリスのオーグスバーグ大学に通う女子大生であると当時に、既に息子を持つ母でもある。息子と家で過ごしているときに、エヴァちゃんのことを伝える記事をたまたま目にした。
「なんの気なしに記事に目を通すと、エヴァちゃんという女の子が奇跡を必要としていると書かれていました」サラさんは言う。「エヴァちゃんのお母さんの立場に立って考えてみたんですよ。もし私が同じ状況に立たされたら、誰かが手を差し伸べてくれることをきっと切望するでしょう」
サラさんの決断と行動は早かった。まず、丸1日かけて医学検査と心理学検査を受けた。結果が出た。まさしく、サラさんはドナー適合者だった。
そしてそのわずか数日後、サラさんの健康な肝臓の25パーセントを摘出する手術が執り行われた。
サラさんからの摘出手術が完了するやいなや、待機していた外科医の手によりエヴァちゃんへの移植手術が開始された。5時間後、無事移植手術が完了した。
全身麻酔から覚めたサラさんは、ベッドから降りて歩き始めた。エヴァちゃんが眠っている病室に向けて・・・。
サラさんは、エヴァちゃんに会いたくてたまらなかったのだという。そして、感無量の対面を果たす。エヴァちゃんの家族たちからは感謝感激の嵐。
ただし、健康な肝臓を移植されたといっても、エヴァちゃんが今すぐ急速に回復するわけではない。まだまだ道のりは長い。
現在、エヴァちゃんは重篤ではあるものの安定した容態にある。今後数ヶ月はネブラスカ・メディカル・センターに入院したまま過ごす。医師たちがエヴァちゃんの回復ぶりを慎重に見守ることになる。
なお、ソースとして参照した英文記事(リンクは下記)にはビデオも用意されている。最初の1分ほどはCMだが、その後、エヴァちゃんとサラさんのストーリーが始まる。再生時間0:54くらいで紫のブラウスを着たブロンドの女性が現れる。この女性がサラさんである。
映像は、エヴァちゃんの母エリカさんがサラさんに感謝の言葉を浴びせるシーンで終わっている。「ありがとう。エヴァの命を救ってくれて、ありがとう」と。
サラさんは、赤の他人のために死亡率0.3〜0.9パーセントのドナー手術を受けて、健康な肝臓の4分の1を提供し、幼い女の子の命をタイムリミットぎりぎりで救ったのだ。ただただ純粋に「自分が同じ立場だったら・・・」と考えて、サラさんは生体肝移植ドナーに名乗り出た。なんと優しい心の持ち主だろうか。
■ Source: Stranger Donates Part Of Liver To Little Girl
【関連記事】
- 彼が彼女に一目惚れしたのは奇跡だった。医学的にも百万人に1人しかいない相手だったのだから。
- ジャズコンサート中に新しい心臓が見つかった10歳の少年、500人の聴衆から拍手喝采を浴びながら会場を後に
- 投げ込まれた手りゅう弾の上に腹ばいになり、自らの肉体を緩衝材にして仲間の命を救ったシール隊員
- 飛び散る火花、骨肉を削り取る路面摩擦 ― 10歳少女が自分の片腕を犠牲にして弟の命を救う
この記事の先頭に戻る
トラックバックURL
この記事へのコメント
1. Posted by 2008年01月20日 14:33
画像も貼らずに記事立てとな!!
と思ったらソースに画像ありますね。
こりゃ美人だ。
と思ったらソースに画像ありますね。
こりゃ美人だ。
2. Posted by southx! 2008年01月20日 21:20
自分にはとても出来ないな。
3. Posted by あ 2008年01月21日 00:17
人を救うのに理由はいらないって言いますけどね
普通の人には出来ない事ですよね
普通の人には出来ない事ですよね
4. Posted by yumi 2008年01月21日 00:36
美しい心の持ち主は、容姿も美しいのですね。
私も見習いたいと思います!
私も見習いたいと思います!
5. Posted by ちむ 2008年01月21日 22:23
素晴らしい人がいたもんだ。
6. Posted by マシュタ 2008年01月22日 11:55
0.3〜0.9%ですか。
天涯孤独ならできますが、守る人がいる身では
この選択は困難です。
いつも楽しく拝見しています。
勝手ながらリンク貼らせて頂きました。
天涯孤独ならできますが、守る人がいる身では
この選択は困難です。
いつも楽しく拝見しています。
勝手ながらリンク貼らせて頂きました。
7. Posted by 暇人 2008年01月25日 02:23
基本的にボランティアとかは偽善なんだよな。利他が自分にも「何らかの」利をもたらす
全ての行動は欲(利)から始まる。この記事の場合も、ドナー自身に「何らかの」利が生じる(金や名誉とは限らない)
賞嘆すべき点は、リスクよりも大きい価値を、得られる利に見いだしている点であり、つまりは実行した点。実行の伴った偽善
助けたいとは誰もが思うが、それは実行の伴わない偽善
全ての行動は欲(利)から始まる。この記事の場合も、ドナー自身に「何らかの」利が生じる(金や名誉とは限らない)
賞嘆すべき点は、リスクよりも大きい価値を、得られる利に見いだしている点であり、つまりは実行した点。実行の伴った偽善
助けたいとは誰もが思うが、それは実行の伴わない偽善
8. Posted by a 2009年07月24日 17:17
偽善という言葉を口にする人間が本質的な意味で偽善だという事に気付け
9. Posted by rolen 2010年07月12日 11:14
暇人さんへ では、あなたのいう善とは何ですか