2007年04月30日

【悪文を回避する文章テクニック】第1回 ― 1つの文の中で助詞の「は」を何度も繰り返すな


私の本業は翻訳であり、訳者として毎日数千字の訳文(日本語とは限らず、英語の場合も多いのだが)をキーボードから入力し続けてきた。それに加え、このブログにも筆者として、ほぼ毎日数百字から千数百字くらいまでの文章を書き続けてきた。だが、物書きの端くれなのかというと微妙なところである。
微妙な立場にある筆者ではあるが、文章にはうるさい。自分の文章に厳しいだけならいいが、他人の文章にもうるさい。特にうるさいのは、日本語の文章を英語に翻訳するときである。むろん、その文を書いたのは依頼元(業界用語では“ソース・クライアント”)、すなわち顧客企業/組織の社員/職員であることが多いため、私は相手に面と向かって文句を言える立場にない。

まあとにかく、誤字脱字、用語の誤用、記述の抜けなどから始まって、内輪でしか通じない略語の多用、へんてこな和製英語の乱用、主題を示す言葉の脱落、そして根本的に何を言いたいのかさっぱりわからない文など、問題だらけの原文を英語に変換しなければならない。

しかし、長年、悪文と格闘してきたおかげで、いろんな法則を経験的に学んできた。日本語の文章の質を低下させる要因については、いまやかなり詳しいはずだ。“悪要因”について詳しくなると、それを反面教師にできるわけだ。

自分の文に付随する“悪要因”を制御する

本業のときも、ここに記事を書いているときも、“悪要因”を出来るだけ回避または制御することを念頭に置いている。巷には、わかりやすい文章を書くためのノウハウがあふれているようだが、良い手本を示されても、千差万別な現実のシチュエーションにそれらを的確に適用できるかと言うと疑問だ。

人が何らかの主題で文を書くとき、目の前に多数の分岐がある。良い手本に基づく文章講座は、その中から1つを選べと言っているのと同じだ。文を書き進めるにつれて次々と分岐点を通過することになるのだから、そのすべてで正しい分岐を選び続けるのは至難の業である。

むしろ、選ぶべきではない分岐、さまよい込むべきではない悪路を常に察知する能力を身に付ける方が確実なのではないかと思う。そうして選ぶ道がすべて最良のものである必要はない。選んだ分岐が最悪級のものでさえなければ、なんとか読める文は書けるはずだ。

読みやすい文を書くには、自分の言葉と表現に付随する悪要因をうまく制御(コントロール)することが最も大切だと考えている。たとえば、そのような悪要因の1つとして、“あいまいさ”がある。

ある言葉やフレーズを使っていて、それに“あいまいさ”が付随していることに自分で気づけるかどうか。気づいたときは、別の表現に置き換えることを考慮しなければならない。だが、あえて使うという選択肢もある。ぼかしたい場合や、あえてどうとでも取れるように表現したい場合がそうである。ブログなどで文章を書く場合は、これも1つのトラブル回避テクニックとなるだろう。

さて、前置きが非常に長くなったが、上記のような視点から新企画を立ち上げることにした。不定期になると思うが、何回かに分けて「読みやすい文」を書くための私なりのノウハウをこのブログに記していきたい。まず、1回目の今回は「は」という助詞の使い方について述べよう。

同じ文の中で「は」を何度も使うと、焦点がぼやける

私がこれから取り上げていく“悪要因”は、いずれも私の経験則に基づくものである。助詞の「は」についても、日本語文法の専門家が言うこととは異なる点があろうかと思う。だが、私はあくまで実践的な知識を示したいと考えているので、そこのところをあらかじめご了承願いたい。

まず、1つの文の中に「は」が複数回出現している極端な例として、次の文を見てみよう。

【例1】私今月家に帰ってくることないと思います。


1つの文に「は」が5回も出現している(語句の並びも不自然である)。もともと単純な内容の文なので「は」が連発していても意味不明とまでは行かないが、どこにピントを合わせてよいかわからない文である。この文を見て違和感を覚えない人は、要注意だ。

上の文章の個々の名詞/動詞を専門的な意味を持つ言葉に置き換えると、「は」の多用が意味不明な文を生み出すことがよくわかるだろう。

【例2】計算冬季マイナスに測定値低下することないと仮定します。


上の例の「は」を1つだけに減らすと、次のような文になる。

【例3】計算、冬季、マイナスに測定値が低下することがないと仮定します。


例1から不自然な語句の並びを引き継いでいるので、語順を整理すると、もっと読みやすくなる。さらに、文頭の「計算は」が唐突過ぎて不自然なので、「この計算」とし、「計算」という無生物が主語であるかのように見えるのも日本語として少し不自然なので「は」を「では」に変えてみると、次のようになる。

【例4】この計算で、冬季の測定値がマイナスに低下することがないと仮定します。


助詞の「は」は、読者をその近辺の語句に注目させる働きを持つ。「は」を複数回繰り返すと、ぼやけた文になるのは、このためである。

だが、「は」は、一般には2回までなら文章の質を低下させないことが多いと思うし、逆に「は」を使った方が自然になることもある。

【例5】この計算で、冬季の測定値がマイナスに低下することないと仮定します。


おそらく例5がベストだろう。なぜなら、この文で最も読者に注目してもらいたいのは、2個目の「は」の前にある“冬季の測定値がマイナスに低下すること”というフレーズであり、これを直後の「ない」で否定している。計算の仮定を確実に知ってもらいたいわけだ。

さて、もっと複雑な例を見てみよう。

【例6】これまでに異父重複受精と確認された例、ほとんどすべて肌の色の違いからその疑いが持たれた場合のようで、この点において日本で、実際に異父重複受精による異父兄弟であっても、その疑い持たれる可能性自体少ないと言えそうだ。


例6は、どう見ても悪文である。「は」が8回も出現している。もちろん、これらの「は」の中には必要なものも含まれている。

例6を見て気づいていただきたいのは、1文が長いという点である。文が長ければ、どうしても「は」を使うべき箇所が1文の中で増えてしまう。1文に含まれる「は」の数を極力減らすには、1つの文を短い複数の文に分割すればいいのである。

【例7】これまでに異父重複受精と確認された例、ほとんどすべてが肌の色の違いからその疑いが持たれた場合のようである。この点において日本で、実際には異父重複受精による異父兄弟であっても、その疑いが持たれる可能性自体が少ないと言えそうだ。


例7では、例6の文が2つに分割されており、1文目では「は」を1回だけ、2文目では2回だけ使用している(誤記があったので訂正:[誤]それぞれの文で「は」を1回ずつしか使用していない)。例6に比べて、かなり読みやすくなっているはずだ。

実を言うと、例7が元の文であり、それを改悪したのが例6だった。そもそも例7は、当ブログの過去の記事に出現している文である。なお、私の場合は、「は」の使用回数を限界まで抑える方針で文を書いている。

《今回のまとめ》
  • 1つの文に出現する「は」の数は、出来るだけ減らす。多くても2回までにとどめる。

  • 「は」が多くなってしまうときは、文が長すぎる可能性が高い。長すぎるなら、複数の短い文に分けよう。

  • 「は」は読者に注目してもらいたいフレーズに使う。

  • 「は」を必要最小限に抑えた文は、すっきりクリアになる。





悪文を回避する文章テクニック



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この記事へのコメント

1. Posted by ALEX   2007年04月30日 19:13
海外に住んでいて、日本語以外を話さざるをえない環境にいると、正しい日本語が以下に大切か良くわかる。
そして、日本から送信されてくるメールの日本語がいかにおかしいかが良くわかる。
現地のスタッフに、日本からの連絡文書を口頭で英訳しろといわれても、日本語の文章の意味自体がよくわからないため約しようがないから。
これからも注目していきますので、期待しています。
2. Posted by aaa   2007年04月30日 19:21
これは使えますね
参考になります
3. Posted by 春   2007年04月30日 21:56
これは勉強になりますね。
4. Posted by urotan   2007年04月30日 22:27
5 これは参考になります。自分で書いた論文を読み返してみると、『は』を多用しているところは読みにくいものが多かったです。今後文章を書くときは気を付けたいと思います。
今後もこのシリーズを続けてもらえるとありがたいです。
5. Posted by 舞   2007年04月30日 22:50
非常に参考になりました。
私自身、論文を書いたりする場合に無意識に「は」の数を減らして書くように気をつけていることに改めて気付きました。
ただ、物書きではない上に、まともに国語を勉強した覚えがないため、句読点の位置が怪しいのが考え物ですが。
Miccckey様が苦にならないのであれば、この様な講座を折を見て開いていただければうれしいです。
その際には、句読点の扱いもご教授願えればと図々しくもお願い申し上げます。
6. Posted by lecturer   2007年04月30日 23:00
私は執筆作業を含む仕事をしているので、この記事はとても参考になりました。続きを期待しています。
7. Posted by あつ   2007年04月30日 23:42
5 万人ウケを狙う「性」関係のトピックに飛び付き読みあさった者の一人ですが、やはり何度も訪問するとなると、その系統にめっきり偏らせた場合、飽きが生じてきてしまう可能性があると、ぼくは思います。
万物共通の心理だとか根底の性に対する考えの、応用物でしか無いなんていう言い方は失礼かもしれませんが、どこか似ている気がして、新鮮さが欠けてくる、と感じる読者さえ出てくるかもわからないと思うのです。だけど、性関係は興味深く面白いのは事実なので続けていただきたいです。ただ、今回の様にタメになる講座であり、また他の珍事件など幅広いトピックを性関係中心に紹介して頂くと、ぼくは面白いと思います。これからもがんばってください。応援します。17歳高三男。
8. Posted by 蘭花   2007年05月01日 01:40
“ほとんど”と“すべて”は意味が違うので、ほとんどすべてとつかうことしないほうが良いですよ
9. Posted by maro   2007年05月01日 03:25
↑悪文の見本のおつもりですか?
いや、決して悪気はないんすけども。
素直に意味が伝わり辛いや。
10. Posted by 女史が好み   2007年05月01日 03:28
1 大学入試センターレベルの現代文の勉強をまともにした人ならば、ここに挙げられているような悪文を書くようなことはないと
思います。

基本的に、「は」の使い方の問題ということではなく、「を」「が」等の助詞全般の使い方に問題があるということでしょう。
11. Posted by Σ   2007年05月01日 03:46
》8
「ほとんどすべて」を検索してみた?てか日本語でOK 
》10
記事の最初の方読むと、エリートの人の日本語がひどいって文脈みたいなんだけどさ
12. Posted by info   2007年05月02日 00:46
5 参考になりました。
13. Posted by QC   2007年05月02日 01:13
5 この記事がネット中で話題になっていますね。各コミュニティ(ソーシャルブックマークとかBBSとか)での反応の違いを見ていると、ユーザー層が浮き彫りになります。そういう意味でもネットウォッチャーの私にとっては、興味深い記事です。
14. Posted by Σ   2007年05月02日 03:07
》13
BBSって2ちゃんねるのことだよね?ニュース系の板の常連はこのサイトを楽しくないと思うはずないし、ソーシャルは登録制だからみんな真面目で素直だし?
15. Posted by ななし   2007年05月02日 07:03
ワタシもコメント5の方と同じで、意識せずとも普通に身についてたような…

簡素に伝えようとすれば、自然と身につくような気もしますなぁ
16. Posted by 舞   2007年05月02日 11:51
2度目のコメントを失礼します。

どちらかというと、若い人を育てる立場にいる人間にこそ有用なのではないかと思います。
部下の作成した文書をこちらで修正して「君の日本語はおかしいから勉強しなさい」とだけ言うよりは、理由を説明できれば、相手も納得できるし鍛えられるでしょう。
普通の文章を書くことができる人間でも、自分の感覚で修正することはできても、どうすればわかりやすい文章になるのかを理論的に説明できることは少ないのではないかと感じます。

僭越ながら違う見方を示してみました。
しかし、端的に伝えたいことを伝えるのは難しい……ブログのコメント欄はあまり長文を書けないので。
17. Posted by lba   2007年05月02日 16:03
確かに悪文を書かない方が実践的ですね。
ためになります。

例7は「日本では、実際には」と2回使用しているようなので訂正した方が良いのではないでしょうか?
18. Posted by miccckey   2007年05月02日 16:11
>lbaさん

ご指摘感謝いたします。さっそく訂正を入れました。
19. Posted by 口語なら見過ごせる。   2007年05月07日 08:20
文章で書くときに気をつけることができても、声に出して敬語で発言する中で自然に正しく美しい日本語が使えない人というのはものすごく多いですね。
この記事に感心した人たちは、恐らく日ごろ敬語で発言するときにぼろが出ていると思われます。
私の場合、アナウンサーが美しくない日本語や、発音で話しただけで腹が立ってしまう性格なので、こういう記事によって正しい日本語が少しでも広まると嬉しいです。
ピーター・バラカンなどと同等に日本語を正しく使える人が、果たしてどの程度日本にいるのか気になります。
20. Posted by Nike Shox   2012年05月26日 14:05
今後もこのシリーズを続けてもらえるとありがたいです。
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21. Posted by have a peek at this website   2014年05月07日 06:55
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