2006年12月13日
南アフリカ共和国フリーステート州。金産出量世界一を誇る同国の金鉱業の中枢を担うウェルコム市一帯の地底に潜り、何ヶ月も太陽を見ずに暗躍しているならず者たちがいる。人呼んでゴールド・パイレーツ。地熱と有毒ガスをものともせず、廃坑の中で寝起きしながら金鉱石を探り当て、非合法流通ルートに流す“地底の海賊”たちである。
「この国で生き抜くための唯一の活路、それが金（ゴールド）なのさ」――そう言ってはばからないのは、このたびAFPの極秘取材に答えたゴールド・パイレーツの1人。彼は、自分の年齢が26歳であり、ファーストネームがサミュエルであることだけを明かしている。
「ひとたび地底に潜ったら、誰も助けてくれやしない。まるで監獄だよ（監獄で強制労働させられているような過酷な日々が続く）。水なんてどこにもない。食料も簡単には手に入らない。岩の上で眠らねばならない。おそろしく熱い岩の上で、ね」
サミュエルは最長で4ヶ月にわたり、一度も地上に出ずに地下で寝泊りしたことがある。そのときの稼ぎは、8万ランド（日本円で約135万円）ほどに達した。そこから“必要経費”を差し引いて6万5千ランド（約110万円）の大金を得て、サミュエルは地上での生活にいったん戻った。
“必要経費”とは、警官や警備員への“謝礼”である。最初に坑道に入り込むには、彼らを買収する必要がある。
地底で暮らしているときは、食費もかさむ。合法的に働いている鉱夫たちから食料を買うのだが、だいたい相場は地上での市価の4倍。たとえば、地上で5ランドのパン一斤は地底では20ランド、地上で30ランドのローストチキンは地底では120ランド（日本円で2千円ほど）が相場。
さて、ゴールド・パイレーツたちが不法に採取した金鉱石は、むろんそのままでは闇ルートに流せない。精錬して金塊にする必要がある。そのための非合法精錬施設が多数存在する。闇精錬業者たちがゴールド・パイレーツから金の原石を買い取って精錬した後、密売シンジケートに金塊を出荷するのである。
つまり、ゴールド・パイレーツ→非合法精錬所→密売シンジケートという構図である。
先日、南アの警察当局は、ウェルコム市内の大規模な非合法精錬施設への家宅捜索を2回にわたって実施した。その施設は「Gホステル」（GはもちろんGoldのG）と呼ばれ、警察当局によると“世界最大級”の非合法精錬所だという。
これらの精錬所では、まず、破砕した金鉱石を鉄球や水銀と共に攪拌した後、細かく削って砂金を作る。次に、砂金を水と水銀で洗浄して、銀色の混合物を作る。最後に、その混合物を溶断用のバーナーで焼いて、金塊にする。このときに気化または飛散した水銀が作業者の皮膚から浸透して、脳や腎臓に害を及ぼす危険が高いという。
「Gホステル」への家宅捜索では、上記の工程の中間生成物である砂金がなんと5トン以上も押収された。純度が高くないとしても、莫大な金額に値する。
冒頭で触れたように南アは依然として世界最大の金産出国ではあるが、年々、金の輸出額が減少しており、同国の屋台骨を支え続けてきた金鉱業の先行きは明るくない。それに輪をかけて、上記のように金の不正採取と闇取引が横行しており、その被害額は日本円換算で毎年170億円にも達している。
南アの警察当局が本気で取締りを強化し始めたのも当然のことである。非合法精錬施設への家宅捜索を積極的に実施しているほか、ゴールド・パイレーツの一斉検挙作戦も展開している。ある作戦では、多数の警官たちを動員して地底に送り込み、一挙に60人ものゴールド・パイレーツを捕らえた。
その作戦を指揮した責任者マイク・フライヤー氏は、今後も追及の手を緩めないと断言する。彼はAFPの記者に次のように話している。「（坑道の中は）自然光が差し込むこともなく、湿気が高く、うだるような暑さです。有毒ガスがあちこちで発生しており、落盤の危険も高い」
そんな過酷な環境でゴールド・パイレーツたちは、泥まみれになり汗だくになり血眼になって金鉱石を探し求めている。まさに、命知らずのならず者たちである。たいがいは数ヶ月後に地上に戻るが、2年間一度も地上に出なかった猛者もいるという。
そしてまた、そんな彼らを捕らえるために地底に送られた警官たちも命がけであったに違いない。合法的に働いている鉱夫たちや警官たちがゴールド・パイレーツに関して特におそれをなしているのは、連中が大胆不敵な爆薬使いだということ。坑道の中で手製の爆弾や仕掛け爆弾を炸裂させて、近づく者を追い払おうとするのだという。下手すれば大規模落盤を引き起こす危険さえあるが、端から危険を省みる気などないのだろう。
とまあ、ここまで書いてきて、まるで映画、フィクション、あるいはゲームの内容を紹介しているような錯覚に陥りそうになる。いや実際、ゴールド・パイレーツたちの実態をもっと詳しく取材して映画にでもすれば、なかなか面白いアドベンチャー娯楽作品が出来上がるかもしれない。
なお、ゴールド・パイレーツの1員であるサミュエルは、巷でゴールド・パイレーツに関して囁かれている、ある噂を否定している。命知らずのタフな男たちが数ヶ月から2年もの間、地底で過ごしている。あっちの処理はどうするのか・・・という問題である。このため、自分の恋人やプロ女性を地上から地底に呼び寄せているという噂があるのだが、サミュエルは「暑すぎて、それどころじゃないよ」と言下に否定する。
法を犯しているという意味においてゴールド・パイレーツたちは悪者だが、ストイックなものを感じないでもない。手にした多額の報酬は、地上に出てすぐに使い果たしてしまうのだろうか？ それとも、親兄弟や家族を養うために費やされるのだろうか。後者だとすれば、“けなげさ”を感じないでもない。
【付記】
ソースの記述を読む限り、ゴールド・パイレーツたちが組織化された集団であるかどうかは、はっきりしない。日本で言う“タコ部屋”とまったく違うことだけは確かである。ゴールド・パイレーツたちは、誰かに強制されているのではなく、大金を手にするために自発的に地底に潜って過酷な環境に身を置いている。
なお、南アの金鉱山は実際には“山”ではなく、地下数キロの深部にまで垂直坑道が掘られており、“大深部鉱山”と呼ばれる（下記の「参考リンク」参照）。
■ Source: http://www.fin24.co.za/articles/default/display_article.
aspx?Nav=ns&ArticleID=1518-1786_2042863 (AFP)
【関連記事】
【参考リンク】
「ひとたび地底に潜ったら、誰も助けてくれやしない。まるで監獄だよ（監獄で強制労働させられているような過酷な日々が続く）。水なんてどこにもない。食料も簡単には手に入らない。岩の上で眠らねばならない。おそろしく熱い岩の上で、ね」
サミュエルは最長で4ヶ月にわたり、一度も地上に出ずに地下で寝泊りしたことがある。そのときの稼ぎは、8万ランド（日本円で約135万円）ほどに達した。そこから“必要経費”を差し引いて6万5千ランド（約110万円）の大金を得て、サミュエルは地上での生活にいったん戻った。
“必要経費”とは、警官や警備員への“謝礼”である。最初に坑道に入り込むには、彼らを買収する必要がある。
メモ：南アの国民の実質的な平均年収は30万円ほどだとするデータがある。サミュエルは1年の3分の1（4ヶ月）で、その4倍の大金を手にしたことになる。
地底で暮らしているときは、食費もかさむ。合法的に働いている鉱夫たちから食料を買うのだが、だいたい相場は地上での市価の4倍。たとえば、地上で5ランドのパン一斤は地底では20ランド、地上で30ランドのローストチキンは地底では120ランド（日本円で2千円ほど）が相場。
さて、ゴールド・パイレーツたちが不法に採取した金鉱石は、むろんそのままでは闇ルートに流せない。精錬して金塊にする必要がある。そのための非合法精錬施設が多数存在する。闇精錬業者たちがゴールド・パイレーツから金の原石を買い取って精錬した後、密売シンジケートに金塊を出荷するのである。
つまり、ゴールド・パイレーツ→非合法精錬所→密売シンジケートという構図である。
先日、南アの警察当局は、ウェルコム市内の大規模な非合法精錬施設への家宅捜索を2回にわたって実施した。その施設は「Gホステル」（GはもちろんGoldのG）と呼ばれ、警察当局によると“世界最大級”の非合法精錬所だという。
これらの精錬所では、まず、破砕した金鉱石を鉄球や水銀と共に攪拌した後、細かく削って砂金を作る。次に、砂金を水と水銀で洗浄して、銀色の混合物を作る。最後に、その混合物を溶断用のバーナーで焼いて、金塊にする。このときに気化または飛散した水銀が作業者の皮膚から浸透して、脳や腎臓に害を及ぼす危険が高いという。
「Gホステル」への家宅捜索では、上記の工程の中間生成物である砂金がなんと5トン以上も押収された。純度が高くないとしても、莫大な金額に値する。
冒頭で触れたように南アは依然として世界最大の金産出国ではあるが、年々、金の輸出額が減少しており、同国の屋台骨を支え続けてきた金鉱業の先行きは明るくない。それに輪をかけて、上記のように金の不正採取と闇取引が横行しており、その被害額は日本円換算で毎年170億円にも達している。
南アの警察当局が本気で取締りを強化し始めたのも当然のことである。非合法精錬施設への家宅捜索を積極的に実施しているほか、ゴールド・パイレーツの一斉検挙作戦も展開している。ある作戦では、多数の警官たちを動員して地底に送り込み、一挙に60人ものゴールド・パイレーツを捕らえた。
その作戦を指揮した責任者マイク・フライヤー氏は、今後も追及の手を緩めないと断言する。彼はAFPの記者に次のように話している。「（坑道の中は）自然光が差し込むこともなく、湿気が高く、うだるような暑さです。有毒ガスがあちこちで発生しており、落盤の危険も高い」
そんな過酷な環境でゴールド・パイレーツたちは、泥まみれになり汗だくになり血眼になって金鉱石を探し求めている。まさに、命知らずのならず者たちである。たいがいは数ヶ月後に地上に戻るが、2年間一度も地上に出なかった猛者もいるという。
そしてまた、そんな彼らを捕らえるために地底に送られた警官たちも命がけであったに違いない。合法的に働いている鉱夫たちや警官たちがゴールド・パイレーツに関して特におそれをなしているのは、連中が大胆不敵な爆薬使いだということ。坑道の中で手製の爆弾や仕掛け爆弾を炸裂させて、近づく者を追い払おうとするのだという。下手すれば大規模落盤を引き起こす危険さえあるが、端から危険を省みる気などないのだろう。
とまあ、ここまで書いてきて、まるで映画、フィクション、あるいはゲームの内容を紹介しているような錯覚に陥りそうになる。いや実際、ゴールド・パイレーツたちの実態をもっと詳しく取材して映画にでもすれば、なかなか面白いアドベンチャー娯楽作品が出来上がるかもしれない。
なお、ゴールド・パイレーツの1員であるサミュエルは、巷でゴールド・パイレーツに関して囁かれている、ある噂を否定している。命知らずのタフな男たちが数ヶ月から2年もの間、地底で過ごしている。あっちの処理はどうするのか・・・という問題である。このため、自分の恋人やプロ女性を地上から地底に呼び寄せているという噂があるのだが、サミュエルは「暑すぎて、それどころじゃないよ」と言下に否定する。
法を犯しているという意味においてゴールド・パイレーツたちは悪者だが、ストイックなものを感じないでもない。手にした多額の報酬は、地上に出てすぐに使い果たしてしまうのだろうか？ それとも、親兄弟や家族を養うために費やされるのだろうか。後者だとすれば、“けなげさ”を感じないでもない。
| けなげさ４ | ■■■■□□□□□□ |
【付記】
ソースの記述を読む限り、ゴールド・パイレーツたちが組織化された集団であるかどうかは、はっきりしない。日本で言う“タコ部屋”とまったく違うことだけは確かである。ゴールド・パイレーツたちは、誰かに強制されているのではなく、大金を手にするために自発的に地底に潜って過酷な環境に身を置いている。
なお、南アの金鉱山は実際には“山”ではなく、地下数キロの深部にまで垂直坑道が掘られており、“大深部鉱山”と呼ばれる（下記の「参考リンク」参照）。
■ Source: http://www.fin24.co.za/articles/default/display_article.
aspx?Nav=ns&ArticleID=1518-1786_2042863 (AFP)
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この記事へのコメント
1. Posted by 真ん中ミヤ 2006年12月13日 19:50
ゴールドパイレーツって存在初めて知ったんだけど、かなり可哀想だと思た。きっと雇用人数オーバーで正規に働けないから仕方なくゴールドパイレーツになったんだね。違反だけど、おおめに見て欲しいよな〜☆
それにしても四か月も過酷な環境でよく過ごせるね。エッチも無しで…あたしには無理だわ(笑)
筆者さん、長文&分かりやすい記事お疲れっす
2. Posted by sien 2006年12月14日 01:22
はじめまして。いつも拝見させて頂いております。sienと申します。
毎回その文章力に舌を巻くばかりですが、今回の記事はとても感銘を受けました。本当に映画か何かのコピーを読んでいるような感覚に陥ります。
それはそうと南アの生活は過酷ですね。血生臭い記事が多い上にこんな過酷な荒稼ぎが横行しているとは日本に住む僕には考えられないです。
毎回その文章力に舌を巻くばかりですが、今回の記事はとても感銘を受けました。本当に映画か何かのコピーを読んでいるような感覚に陥ります。
それはそうと南アの生活は過酷ですね。血生臭い記事が多い上にこんな過酷な荒稼ぎが横行しているとは日本に住む僕には考えられないです。
3. Posted by mw 2006年12月14日 12:09
法を犯して資源を盗掘する彼らが、更に国の経済を破綻させる。だから合法的な手段では収入が得られなくなる。
という悪循環を招いてるんだと思うけど。
という悪循環を招いてるんだと思うけど。
4. Posted by あ 2006年12月15日 09:08
カイジを思い出しました5. Posted by い 2006年12月16日 05:25
↑よう俺。
きっとカジノ船で負けたんだね。
きっとカジノ船で負けたんだね。
6. Posted by ・ 2006年12月19日 13:22
これだけやって一月三〇万ちょいなんやね……
ちょっとかわいそうに感じてしまうな
ちょっとかわいそうに感じてしまうな
7. Posted by �西�尉 2007年01月04日 10:39
ｺﾞｰﾙﾄﾞﾊﾟｲﾚｰﾂには悪いがこれは面白い！！映画化してほしい(*´д`*)
