G- なんでも評点:貧乏は遺伝する? ― 免疫系の異常活性という共通の遺伝形質(スコットランド)

2006年05月22日

貧乏は遺伝する? ― 免疫系の異常活性という共通の遺伝形質(スコットランド)


貧しい家に生まれても、本人の頑張り次第で豊かになれる。しばらく前まで日本では、そう信じられてきた。実際、貧しい家に生まれながら一代で富を築いた人がたくさんいた。だから“貧乏は遺伝する”などという説を唱えても、一笑に付されるだけのことだったろう。
しかし、21世紀の日本では、格差社会という言葉がますます現実味を帯びつつある。ある意味、貧乏が“遺伝”しかねないような状況にもなりつつある。しかし、生物学的に遺伝するという意味ではなく、あくまで社会構造的に受け継がれていくという意味である。

ところが、格差社会としては日本の大先輩に当たるとも言える英国では、“貧乏は生物学的に遺伝してきた”という研究結果が発表されている。発表元は、スコットランドのグラスゴー市民健康センター。

しかも、意外なことに免疫系の過剰反応が貧困を招いているというのである。どういうことだろうか? それを説明する前に、この研究の対象となったスコットランドの地域性をまず理解しておく必要がある。

スコットランドは、西側諸国において、健康を害している人が最も多い地域の1つである。心臓病、肥満、がん、糖尿病などの慢性疾患の罹患率が驚くほど高いという。

しかも、同じスコットランドの中でも大きな地域較差がある。グラスゴーのイーストエンド地区(貧しい人たちが多いことで知られる)に住んでいる男性は平均寿命が64歳であるのに対し、オークニー州の男性の平均寿命は82歳に達しているというように。

実は、この健康レベルの差は所得レベルの差に呼応している。不健康な人が多い地域には、貧しい人たちが多い。

この研究において研究監督を務めた生化学者のクリス・パッカード博士によると、不健康で所得が少ない人たちは、免疫系が常に“厳戒態勢”で稼動しており、慢性的な炎症を患っているのと同じ状態で生活しているのだと言う。

免疫系では、サイトカインと呼ばれる化学物質を使用してバクテリア迎撃体制を整えるための指令を伝達する。調査の結果、裕福な地域の人たちに比べて貧しい地域の人たちの方がはるかにサイトカインの血中レベルが高いことが判明している。

免疫系が常時過剰に活動していると何がいけないのか? グラスゴー市民健康センターの論文では、以下の2系統の重大な悪影響が指摘されている。

  • 老化が早まる

    老化防止に不可欠な体内の“スペアDNA”が免疫反応のために、どんどん注ぎ込まれていく。このためスペアDNAが欠乏し、体中の細胞組織が衰えて老化が早まる。イーストエンド地区の実年齢55歳は、生物学的年齢70歳に相当する。つまり、実年齢より15歳も老けてしまっている。

    具体的には、動脈壁の厚さを測定することで、老化の進行程度を数値化することができる。

    パッカード博士はこう述べている。「免疫系が常に“厳戒態勢”にあることにより、生活年齢よりもはるかに老化が進んでしまいます。そして、慢性疾患の罹患率も高まっています。こうして、見た目も老けた人たちが多いという結果になっています」

  • 向上意欲が失われる

    グラスゴー市民健康センターの研究者たちは、過剰反応を続ける免疫系が人の心的状態にどのような影響を及ぼしているかを解明すべく、脳スキャンによる調査を実施している。その結果、大量に分泌されるサイトカインが脳に悪影響を与え、普通ならごく自然に沸き起こってくるはずの向上意欲が減退してしまっていることがわかった。

    パッカード博士は言う。「(免疫系から分泌される)サイトカインは、心的状態に悪影響を及ぼします。人生に対する意欲全体が低下し、マイナス指向が非常に強くなります」

    「貧しい境遇に生まれた人たちが貧乏から抜け出せず、自分たちのライフスタイルを変えて健康を向上させることすら考えられないのは、これが原因ではないかと思われます。彼らは、人生に対して非常にネガティブに感じており、自分たちの生き方を向上していこうという気にさえなれないのです」


さて、グラスゴーでは、上記に該当する人たちがイーストエンド地区に集中して暮らしている。パッカード博士は、これらを“遺伝形質”だと断定している。この地区の人たちの間で、何世代も前から受け継がれきた遺伝形質なのだ、と。

パッカード博士によると、これらの遺伝形質は、ビクトリア朝時代(1837年〜1901年)に多数の死者を出した疫病(麻疹など)の流行を生き延びた人たちから受け継がれたものだという。つまり、生物淘汰的観点から言うと、イーストエンド地区の貧困層は“勝ち組”の遺伝子を持つ人たちだということになる。

結局、この地区で生き延びた人たちの子孫の大半がこの遺伝形質を持っている。そして、彼らは何世代にもわたって同じ地区で暮らしている。ゆえに、上記のような理由により、貧困に拍車がかかっている。というのがパッカード博士の主張である。

異常に高活性の免疫系がもたらす利点は、現代においてもゼロではなく、子供のころには病気にかかりにくい。ところが成人すると、免疫系が働きすぎることが体に負担を生じ、老化を早める。さらに、分泌される化学物質が心的状態にネガティブな影響をもたらす。

ソースに記述されていることではないが、もともとイーストエンドは下流階層が暮らしていた地区だったと思われる。疫病が流行したビクトリア朝時代、この地区は衛生状態も悪かったはず。それでも生き延びた人たちは、きわめて高活性の免疫系の持ち主だったということになるだろう。

だが、もっと衛生状態がよかった地区に暮らしていた中・上流階層の人たちもいた。これらの人たちは、異常に活性の高い免疫系の持ち主でなくても現代に子孫を残すことができている・・・ということになるだろう。

本稿では詳細を割愛するが、当然のことながら、この説は現地でも賛否両論を呼んでいる。とりわけ、“貧乏が生物学的に遺伝してきた仕組みを解明した”としている点が最も物議をかもす。貧乏は生物学的現象ではなく、社会現象だという反論が寄せられている。

筆者自身は、この説の真偽についてとやかく言える立場にないが、疑問な点もある。特に、「免疫系が活発だと老化が早まる」としている点に大きな疑問を感じる。ま、この地区の人たちに固有のパターンで免疫系が過剰反応を続けているという意味かもしれないので、なんともいえないわけだが。

ただまあ、上記の説がおおむね正しいという前提で言えば、ある時代において“勝ち組”だった人たち(疫病の流行を生き抜いたタフな人たち)の子孫が現代において“負け組”に甘んじているというのは皮肉な話である。

また、サイトカイン(これはホルモンと同じような体内化学物質の総称なのだが)の大量分泌が心的状態にマイナスの影響を与えているのが真実だとすれば、やはり悪循環といわざるをえない。

悪循環指数9■■■■■■■■■□





■ Source: http://news.scotsman.com/scitech.cfm
?id=753652006


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1. NHKの歌のお姉さんが草画伯を超えた件について  [ 人生敗北宣言 ]   2006年05月23日 13:49
今から463年前、コペルニクスが「天体の回転」を出版し地動説を発表 した今日は、世の中ではどんな出来事が起こっているのか見上げていき ましょう。 貧乏は遺伝する? そんなの〜は い〜やだぁ! 遺伝子である時代においては勝ち組に、ある時代には負け...

この記事へのコメント

1. Posted by     2010年08月27日 09:22
「不健康で免疫系が活発」と「健康」の何が違うんだ?
2. Posted by Read Much more   2014年05月07日 14:44
eliquids なんでも評点:貧乏は遺伝する? ― 免疫系の異常活性という共通の遺伝形質(スコットランド)
3. Posted by あ   2014年11月29日 02:53
要するに、ずっと気を張りつめていると体も心も疲れるってことか?

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