2004年07月03日

「どちらかといえば」という表現《まぎらわしさ7》


筆者は、昨日、免許更新講習を受けに行ってきた。その生き方そのものがさまざまな違反をはらんでいることで知られる筆者は、当然、運転中にもいくつかの違反を犯しており、2時間講習となった。

その内容は、まあお決まりのものだったが、今回は救急隊員の視点から実際の事故現場を撮影したビデオ(DVD化されてましたよ)を見せられた。これはなかなか興味深い内容であった。皆さんもご存知のとおり、当ブログ「なんでも評点」は、人間が過ちをおかしやすい「まぎらわしさ」というものに異常なほどの執着を示しているが、まぎらわしさが交通事故の引き金になることが映像の中でも立証されていた。

いやもちろん、「まぎらわしさ」に原因があることを交通安全協会が認めるはずもない。彼らは、どんなケースにも「ドライバの不注意」と「スピードの出しすぎ」の2つで説明をつけようとする。

「(信号があろうとなかろうと)交差点は常に徐行して通過しなければならない」というお決まりのセリフが妄言めいて聞こえるのは筆者だけだろうか? 自分の車もほかの車も含めた交通の流れに乗って走行しているときに、あなたが信号のある交差点を直進しようとして突如徐行したら、追突されるリスクが非常に高い。

安全運転さて、ビデオの後、「安全運転自己診断」なる冊子を開き、わりと速いテンポで設問に「はい」「いいえ」で答えるように言われた。

問1.操作が下手な人がいても、我慢して待ってあげられる

問2.よく追い越しや車線変更をするほうだ

などというありきたりな設問が続いた後、

問7.どちらかといえば、運転に自信がないほうだ

と来たではないか。筆者は、本当は運転に自信がある。しかし、この手の心理テストの通例として、ここで正直に自信があると答えると悪い結果になると予想した。ゆえに、「自信がない」と答えたかったのだが、はい/いいえのどちらを選択すべきか即座には判断できなかった。

これと似たケースについては、既に「はい」と「いいえ」...《まぎらわしさ評点 7/10》の記事で取り上げたのだが、この設問のまぎらわしさは、否定形の質問であることのほかに「どちらかといえば」という表現にある。「はい、運転に自信がありません」と補足して考えれば、正しい答えがすくにわかるはずなのだが、筆者の場合「どちらかといえば」に引っかかってしまう。

たとえば、筆者がずるがしこいことを考えずに、正直に「運転に自信あるに決まってるだろうが」のつもりで「はい」と「いいえ」のどちらかを選ぼうとすれば、どうなるだろうか? だが、この設問だと「どちらかといえば」という限定のもとで「はい」または「いいえ」を選ばなければならなくなる。どちらかもクソもなくて、俺は絶対に運転が上手いのだと思っている人は、「はい」と「いいえ」のどちらを選んでも自分の思っているとおりの回答をできていないことになる。

「だけど、あんたはウソの答えを選ぼうとしていたんだからどうでもいいじゃない」と誰かが言いいそうだが、そんなわけにはいかない。筆者は自分の本心と正反対の答えを選ばなければならなかったのだ。そのためには、まず先に自分の本心に一致する答えを選ぶ必要がある。「運転に自信あるに決まってるだろうが」に一致するのは「はい」と「いいえ」のどちらなのかを決定しなければならなかった。それを決定した上で、逆の方を回答しなければならなかったのである。

逆のケースで考えてみよう。あなたは運転にまったく自信がなかったとしよう。「どちらかといえば自信がないです」なんてことを平気で答えられるだろうか? どちらかどころか、絶対的に自信がないので、「はい」でも「いいえ」でもありません。ということになりはしないか?

さて、「どちらかというと」という表現にこんなふうにとらわれてしまうケースもあれば、「どちらか」の基準がわからなくなって混乱するケースもありうる。たとえば・・・・

  • どちらかといえば、あなたは時間に正確ですか?

人との待ち合わせにまったく遅れない人、数分しか遅れない人、10分や20分は平気で遅れる人、1時間くらいよく遅れる人、すっぽかしが得意な人、2時間前から待っている人、翌日の同時刻に待ち合わせ場所に現れる人など、いろいろな人がいるが、この場合、「どちらか」の区切りはどこにあるのか。数分程度しか遅れなかったら、「どちらかといえば正確」になるのだろうか。あいまいではないか。

かように「どちらかといえば」という日本語表現は、まぎらわしさに満ちている。そのまぎらわしさには、評点7を与えたいと思う。ただし、言葉の表面からトゲをなくしたい場合には有効なレトリックとなりうる。以下に使用例を挙げておこう。

  • どちらかといえば、あなたのこと嫌いじゃないわ。好きなほうかもしれない。でも・・・
  • どちらかといえば、彼はスノッブと形容できるかもしれない。
  • どちらかといえば、社員が社長の写真を壁紙にしてる会社ってイヤじゃない?

 

 

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1. まぎらわしさ  [ 用語解説 - なんでも評点 ]   2004年07月04日 23:40
この世には、いろんなまぎらわしさが渦巻いていますが、「意図しないまぎらわしさ」と「意図的なまぎらわしさ」の二種類に大別できそうです。 「たとえば、ンとソ、0とO...」の記事で言うと、ソとンがまぎらわしい筆跡は、意図しないまぎらわしさになります。信用状をわざと

この記事へのコメント

1. Posted by Liz   2004年07月03日 18:28
いやぁ、今日のは特に面白いですね。
暑いのに、冴えてますね!ホントおっしゃる通り。
外国でも、こんなまぎらわしい表現、あるんでしょうか?

2. Posted by miccckey   2004年07月04日 00:21
Lizさん

毎度どうも。

まぎらわしい表現があるのは、日本語に限らないです。英語でもいろいろありそう。

くだけた口語では I don't know anything の意味で I don't know nothing と言うとかいろいろあるみたい。学校では、二重否定はマイナス掛けるマイナスだから肯定になると習ったと思うけど、この場合は否定を倍増していることになるみたい。

特定の専門分野に特化したソフトウェアのドキュメントの英語には、同じ単語が全然違う意味で使われていてまぎらわしいことがよくあります。コンピュータ用語としてのfield(入力フィールドやデータベースのフィールド)と物理学用語のfield(磁界などの意味)が混ざっていてまぎらわしいのとか、いろいろ出くわしたことがあります。また、今度、記事にするかも(本業ブログの記事にすべきかもしれないけど)。
3. Posted by Liz   2004年07月04日 01:40
どうもです。
同じ単語でも、使う分野が違えば意味するところが違うのは、日本語でもありますが、それが原因で混乱を起こして大変なことになった、なんて、もしあったら興味深いです。
でも、この「どちらかといえば」ってのは、確かにヘンですよ。
はい か いいえ で答える質問なのだから、はい の中には「まぁ、どっちかってーと、はい だなぁ」っていうのが、含まれるでしょうから。わざわざ質問文に、ご丁寧に加えるモンなのかと。
例えばこれが、「はい・どちらかといえば、はい・どちらでもない・どちらかといえば、いいえ・いいえ」というように、5段階にでも分かれていれば、また違ってくるんでしょうけど、心理テストじゃありませんしねぇ。
4. Posted by miccckey   2004年07月04日 01:45
毎度です。

分野によって意味が違う言葉のために何らかの問題が生じることって、わりとありそうです。実は、そのうち、この線で何か書こうと思っています。

大混乱に至ったケースもあったのではないでしょうか? 頭の引き出しのどこかにしまってありそうですが、今は思い出せないなあ。

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